第249話 生きていた? あの男

 なぜ死体が……?


「この方が教祖の塚原鬼李唖つかはらきりあ様です」

「ええっ!?」

「なんで子供が……いや、それ以前に死んでんじゃんっ!」

「いつものことです」

「い、いつものこと?」


 死んでるのがいつものことってどういうことだよ……。


 意味がわからず、俺たちは立ち尽くす。

 ……やがて、


「うおっ!?」


 完全に死んでいたと思われる女の子の身体がピクリと動いて立ち上がる。


「なんじゃ死んだふりをしとったのか?」

「いや、完全に死んでたと思うけど……」


 仮死状態だったのか? けどなんのために……。


 立ち上がった教祖の幼女……塚原鬼李唖は俺のほうを見てニッコリと笑う。


「やあ、ひさぶりだね小太郎君」

「えっ?」


 ひさしぶり? 会ったことなんかないが……?


「僕だよ僕。嫌だなぁ。君に服従を誓った奴隷さ」

「奴隷?」

「えっ? コタローこんな小さな子を奴隷って……」

「いやいやいやいやいやっ! 違うからっ! 奴隷になんてしてないからっ!」

「なんじゃチビが好きなら早く言えばよいのじゃ。こんな奴隷などおらんでも、わしがいくらでもしてやったというのに」

「だから違うって……」


 そもそも初めて会ったのだ。それなのに奴隷とか意味が……。


「ま、まさか……」


 俺の奴隷を自称する人間にひとりだけ心当たりがある。けどまさか……。


「お前、もしかして戸塚じゃ……」

「ご名答。君の忠実なる奴隷の戸塚我琉真さ」

「やっぱり……」


 再会は別にどっちでもよかったのだが……。


「どういうことだ? なんでお前が子供で教祖なんだ? て言うか、なんで改変前の記憶を保持してるんだ?」


 子供なのもおかしいし、教祖なのもおかしいし、なんかもうこいつに関してはいろいろおかしい。


「ああ、まずはその改変ってのがどういうことなのか教えてほしいかな」

「そ、そうだな」


 言われて俺は世界がこうなったわけを戸塚に話す。


「なるほどね。気が付いたら別の場所にいたからさすがの僕も困惑しちゃったよ」

「なんでこいつは記憶を保持できてるんだろう……?」


 俺は千年魔導士のほうへ目をやる。


「この方はそもそも死んでおられたようなので、それが理由でしょう」

「そ、そうか」


 そういえば死人だったか……。


「けどなんで子供の身体に?」

「これはゴーレムだよ」

「ゴーレム?」


 とは、確か人間の魂を憑依させられる人形のことだが。


「そう。君なら知っているんじゃないか? 人間の魂を宿せるゴーレムって人形のこと。僕はこの宗教団体で崇められていたゴーレムに憑依したってわけ」

「それがなんで教祖になってるんだ?」

「そもそも前の教祖が自分の魂をこのゴーレムに憑依させようとしていたみたいなんだけどね。失敗してそのまま死んでしまったんだ。だから僕が代わりにって感じ」

「そ、そうか」


 相変わらずデタラメな生き方をしてる奴だ。いや、死んでるんだけど。


「教祖様とお知り合いだったんですか?」

「ああまあ……うん」

「僕は彼の奴隷だよ」

「黙ってろ」


 まあこいつが教祖なら話は早いか。


「それで、俺がここへ来た目的はわかってるのか?」

「ああ。君の小さなママをここの信仰対象にして、力を集めたいんだろう。話はちゃんと聞いているよ」

「まあ信仰対象を変えるなんて難しいと思うけど……」

「いや、そうでもないよ」

「そうなのか? てか、ここの信仰対象ってなんなんだ?」


 いやまあ、カルトならだいたいの想像はつくのだが……。


「信仰対象はこの僕さ」

「ああ、やっぱり……」


 カルトなら教祖=信仰対象だろうとは思ってた。


「最初はこのゴーレムを信仰対象にしていたみたいなんだけどね。教祖が空っぽのゴーレムと一体化して自らが信仰対象になろうとして、まあこうなったわけなんだ」

「人形を崇拝していたのか?」

「まあそういうこと」

「というかこれ、どういう宗教なんだ?」


 宗教には詳しくないが、なにかコンセプト的なものはあるのだろう。


「どういう宗教かは、まあ僕の姿が物語っているよ」

「お前の姿が物語ってる……って」


 子供の姿をしたゴーレムだ。外見に特徴らしいものは見られないが。


「この宗教は君が会長をしている組織を隠すために表の顔として作られたものだ。コンセプトは逆のほうが隠すには都合が良いだろう?」

「逆のコンセプトって……えっ? まさか……」


 戸塚の外見が物語っている。

 雪華を信仰対象にするのは難しくない。


 これはつまり……。


「そう。ここは幼女を信仰する宗教だ」

「や、やっぱり……」


 なんとも斬新な宗教団体であった。


「なんでお前、そんな宗教の信仰対象に憑依したんだ?」


 身体がほしかったからだけかもしれないが、戸塚のことだしなにか思惑があるんじゃないかと思った。


「この宗教は皆、信仰心が強い。そういう人間を多く確保して自由に使える状態にしておけばいつか君の世界支配に貢献できると思ってね」

「世界が変わってもまだそんなことを考えていたのか」

「僕が考えているのは常にそれだけさ。君を世界の支配者にすることで世界は平和で自由となる。その信念は世界が変わっても変わらないよ」

「そ、そうか」


 戸塚とはいろいろあったが助けられたこともある。一応は信用しているが、寄せられる期待が大き過ぎて少し引いていた。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 今度は幼女になって復活。頼りにはなる男ですが、好かれ過ぎてて小太郎はちょっと恐怖を感じていそうです。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回は信者の多さにびっくり。

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