第250話 幼女を愛でる教

 ……それから何日か経ち、宗教施設の巨大ホールに多くの信者が集められる。


 幼女を愛でる教とかいうこの宗教。

 信者の数はここに集まっているだけでかなりの人数に思える。


 俺たちはその信者たちに交じり、これから始まる催しを待っていた。


「本当に大丈夫なの?」


 アカネちゃんに問われて俺は答えに窮する。


 この催しで雪華をこの宗教の信仰対象にするらしい。

 戸塚も諏訪も大丈夫とは言っていたが、はたして……。


「あなた……」


 上下真っ白な服を着た信者の男性に声をかけられる。


 ここにいるのは巨乳美女を守る会の人間ではない。

 アカネちゃんのことをなにか言われるのではと、少し警戒する。


「信者服を着ておられませんね。新しく入信された方々ですか?」

「えっ? あ、まあ、そうです……」

「あなたがたは正しい選択をなされた。いずれ幸福が訪れるでしょう」

「そ、そうですか。どうも」


 ニッコリ微笑んだ男性はそのまま離れて行く。


「アカネちゃんのことなにか言われると思ったけど違ったみたい」

「そうだね。なんか普通のカルト宗教って感じ」


 普通のカルトとはまた難しい表現だが、まあ俺もそんな感想である。


「この宗教の信者さんたちはすべての事柄に寛容なのです。巨乳美女様を悪く言う人はいませんよ」


 俺の背後で諏訪がそう言う。


「その寛容さは宗教の教えによるものなのか?」

「それはこれから行われる催しご覧になっていただければわかると思います」

「ふーん。そういえば信者の数はどれくらいなんだ?」


 巨大ホールには満員と言っていいほどに人が集まっている。これで全員だとすれば数百人くらいだろうか……。


「全世界で5000万人ほどです」

「ご、ごごごご5000万人っ!?」


 冗談か? 本当だとしたらもはや国家の人口並みになるのだが……。


「ほ、本当に5000万なのか?」

「はい。ここに集まっているのは多くお布施をされた最上級の信者さんたちです。教祖様に直接、お会いできるのは最上級の信者さんだけなんですよ」

「へー」


 想像以上に規模の大きな宗教のようだ。

 しかしだからこそ、信仰対象を変えるのが難しいように思う。


「あ、そろそろ催しが始まりますよ」


 ホールの証明が落とされ、ライトを当てられた正面の舞台にマイクを持った男性が現れる。


「最上級信者の皆さまお待たせいたしました。本日は教祖様より皆さまに大切なお知らせがございますので、心してお聞きください」


 大切なお知らせと聞いたからか、信者たちがざわつく。


「では教祖様にご登場いただきましょう。どうぞ」


 司会の声と同時に上空から金髪の幼女……戸塚がふわりと舞台へ降りて来る。


「ごきげんよう皆さま」

「うおおおおおっ!!!」


 戸塚の登場に信者たちが湧く。


 中身がテロリストのおっさんだと知ったら彼らはどう思うだろう? いや、そもそも中身が空っぽのゴーレムだったんだし、気にしないかな……。どうでもいいが。


「お美しい……」

「教祖様……」


 皆が戸塚へ向かって手を合わせる。

 中には涙を流している者もいた。


「な、なんだ一体……」


 なんかすごく感動している様子だ。


 戸塚が出てきて少ししゃべっただけでこの雰囲気。さすがカルト宗教の教祖様と言った感じか。


「今日は皆さまに大切なお知らせ……いえ、神よりの意志をお伝えします」

「か、神よりの意志……」


 戸塚の言葉を聞いた信者たちは困惑している様子だ。


「お、恐れながら教祖様、発言をお許しいただけますか?」

「許します」


 ひとりの信者が恐る恐るといった様子で舞台の前に出て来る。


「我々は教祖様を神として信仰をしてきました。神よりの意志とは、教祖様のご意志と考えてよろしいのでしょうか?」

「違います」

「な、なんと……」


 信じてきたものを覆された。信者たちの様子はそんな感じだった。


「では教祖様は神ではないのですか?」

「そうです」

「か、神だと偽って我々を騙しておられたのですか?」

「そうです」

「そんな……」


 あちこちで信者たちが落胆の表情を浮かべている。


 信じて貢いできたのに、それを覆されたのだ。

 そりゃ落胆もするだろう。


「おい大丈夫なのか? 下手をすれば暴動が起きそうな雰囲気なんだが」

「平気です。この宗教の信者さんたちは寛容ですから」

「いや、寛容ったって……」


 信じていたものが嘘だったと知ってそれを許せるはず……。


「でも教祖様はかわいいからいいか……」

「そうだな。教祖様はかわいいからそれでいいや」

「ええ……」


 なんだそれ?


 なぜか誰しもがそんなようなことを言っていた。


「いいのかこの人たちはそれで……」

「寛容な信者さんたちですから」


 寛容とかそういうことなんだろうか……?


「はい。それでは神の意志をご本人から伝えていただきましょう。さあ新たな我らの神よこちらへどうぞー」

「……」


 ……戸塚が呼ぶが現れない。


「神よー? 神様―? こちらへどうぞー?」

「あっ」


 舞台袖からチラと顔を覗かせている雪華の姿が見える。


 どうしたのだろうと見守っていると……。


「うあーっ!」


 大声を上げて舞台袖から飛び出してくる。

 その姿は以前に見た魔法少女の格好であった。


「わ、わしが新たな神の……ス、スノーフラワーじゃーっ!」

「……」


 ……これダメじゃないか?


 なんで魔法少女の格好をさせられているかはわからないが、宗教の信仰対象があれでいいわけは……。


「……素敵だ」

「えっ?」

「なんて可憐で美しい幼女……」

「我らの新たな神だ……」


 ホール内は雪華の登場に湧き立つ。


「かわいいっ! かわい過ぎるぞスノーフラワー様っ!」

「のじゃロリきたー!」

「新たな神スノーフラワー様バンザーイ!」

「かわいい幼女がいればなんでもいいっ! すべてが許せちゃうよーっ!」


 信者たちは大喜びな様子で、ホール内は大盛り上がり。


 よくわからないが、雪華は信仰対象として受け入れられたようである。


「ここの信者さんたちはかわいい幼女が拝めればそれでよいのです。それだけですべてを許して寛容になれてしまうのが幼女を愛でる教の信者さんたちなのです」

「よくわかんない……」

「彼らにとってのかわいい幼女は、我々にとっての巨乳美女様と言えばおわかりいただけるかと」

「なるほど」


 そう言われれば理解できた。


 ともあれ雪華を信仰対象にすることは成功した。

 これで力を集めることができ、イレイアとの戦いに備えられるだろう。


「うおおっ! スノーフラワー様ーっ! 俺を甘やかしてくださーいっ!」

「俺も―っ!」

「嫌じゃーっ!」


 ……しかし雪華はこれから大変そうであった。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 なんだか楽しそうな宗教です。しかし雪華は魔法少女の格好をさせられたからか、嫌がっているみたいですね。


 たくさんの☆、フォロー、応援、感想をありがとうございます。引き続き☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。


 次回、白面の正体を知ったイレイアは……。

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