第275話 封印された魔王様の魔王様

「どうしたの?」


 キョトンとしたアカネちゃんが俺の顔を覗く。


「い、いやその……」

「ん?」


 察したのか、アカネちゃんの手が俺の股間へ伸びる。


「あれ? これ……どうしたの?」

「な、なんか全然、反応しなくて……」


 アカネちゃんに対する想いはもちろんある。巨乳美女は大好きだし、素晴らしい存在だという思いだって無くなってはいない。

 それなのに俺の股間はアカネちゃんのおっぱいに触れても無反応だった。


「えっ? どうして?」

「ど、どうしてだろう……」


 こんなこと今までになかった。触れるどころか、アカネちゃんのことを考えるだけで反応していた。それなのに触れても反応しないなんてあり得なかった。


「ちょっと見せてみなよっ!」

「いやちょ……アカネちゃん」


 アカネちゃんが俺のズボンを脱がそうとしたとき、


「あつ……っ」

「えっ?」


 額と頬が燃えるように熱くなり、俺は痛みに呻く。


「な、なんだ……いたた……」

「コ、コタロー……」


 アカネちゃんがびっくりしたような表情で俺を見上げている。


「ど、どうしたの?」

「か、顔に……」

「顔?」


 俺の顔になにかあるのだろうか?

 触ってみてもわからない。


「ほらこれ見てっ」

「うん? うわっ!?」


 アカネちゃんが俺の顔を部屋にある鏡のほうへ向ける。

 そこに見えたのは……。


「な、なんだこれっ!」


 額に勃起。両の頬に不全と赤く浮かび上がっていた。


「な、なんでこんなものが……」


 意味がわからなかった。


「どうやら呪いをかけられたようですね」

「えっ? うわあっ!?」


 いつの間にか千年魔導士が部屋の隅にいて、俺たちをじっと見ていた。


「お、お前いつからそこに?」

「初めからです」

「初めからって……」

「リトル魔王様ができる瞬間をこの目で見届けて、お生まれになった際はできたそのときのお話をリトル魔王様にお話して差し上げようかと」

「なにを考えているんだお前は……」


 とんでもないことを考えていたのを知って絶句する。


「そ、それよりも呪いってなんなのっ?」


 俺としては千年魔導士の行動を咎めたいところだが、アカネちゃんはそれよりも俺にかけられている呪いとやらが気になるようだ。


「どうやら神を名乗るあの女の仕業みたいですね」

「見ていたのか?」

「ええ。扉の隙間からこっそり」

「普通に式場内へ入って来ればいいだろう……」

「敬愛する魔王様が結婚する姿を目の前で見せつけられるなんて、そんなつらい思いはしたくないじゃないですか」

「なにを言ってるんだお前は」


 つまらない冗談だ。


「それであの女がコタローにかけた呪いって?」

「そこにある通り勃起不全になる呪いでしょう」

「は?」


 千年魔導士の言葉を聞いたアカネちゃんがポカンとした表情を見せる。

 俺もたぶん同じような表情をしていた。


「あの女が魔王様に向かって指を向けてなにかしたでしょう。あのときに呪いをかけたのだと思います」

「ちょ、ちょっとなんでそんなことするのっ!」

「それはわかりません。なにか目的はあるのでしょうが……」

「けどそんな呪いなんかすぐに消せるでしょ? コタローは最強なんだから」

「えっ? あ、そ、それもそうだ」


 呪いをかけられているとわかったなら解呪すれば……。


「……あれ?」


 なにかしら呪いはかかっているらしいことだけはわかった。

 しかし解呪はできない。


「呪い消せた?」

「い、いや、呪いはあるみたいなんだけど、消すことはできなくて……」

「えっ? ど、どうして? コタローより強い奴なんていないじゃん。それなのに呪いを解くことができないなんてことある? というか、状態異常は無効なんじゃないの?」

「う、うん。そのはずだけど……」

「確かに魔王様は強いです。しかし上は存在します」

「それって……あの女のことか?」

「はい。あれは神でしょう」


 俺はやはりと顔をしかめる。


「けど神がどうして俺に勃起不全の呪いなんか……」


 俺とアカネちゃんの結婚に異議を申し立てることが世界のためだとか、俺を勃起不全にしたり行動の意味がさっぱりわからなかった。


「なにかしら目的があるのでしょう。それは私にもわかりませんが……」

「目的とはどうでもいいよ。どうしたら元に戻せるの?」

「神の力による呪いです。神にしか解呪はできないでしょう」

「神は……あの女はどこにいるの? 天界とか?」

「神の居場所は不明です。所謂、神界という場所にいるようですが、そこがどこにあるのかどうやって行くのかはわかりません」

「じゃ、じゃあどうしたら……」


 落胆した表情で下を向くアカネちゃんの肩を俺は抱く。


 せっかく大切な日を迎えるはずだったのに……。

 なんの目的は知らないが、俺の中に神への怒りが湧いてくる。


「神は魔王様へ災難が起こると言っていました。その災難を振り払えば、ふたたび魔王様の前へ現れるのではないでしょうか?」

「ううん……」


 そうかもしれない。

 しかしそれがいつ来るのか? どんな災難なのか? 簡単に払えるものなのかもわからない。仮にそれを払って神がふたたび俺の前に現れたとして、呪いを解いてくれるかもわからないことだ。


 アカネちゃんと結婚してしあわせな日々が送れると思っていたのに、こんなことになってしまうとは……。


 神への怒りと同時に、今夜を楽しみにしていただろうアカネちゃんへの申し訳ない気持ちで俺の心はいっぱいだった。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 勃起不全という災難が訪れた上にまだこれからなにか起こるようですね。はたして魔王様の魔王様が復活するときはくるのか……?


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回はあの男が復活。

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