かつて異世界で最強の魔王をやってた平社員のおっさん ダンジョンで助けた巨乳女子高生VTuberの護衛をすることになったけど、今の俺はクソザコなんで期待しないでね
第49話 寺平重助の思惑(小田原喜一郎視点)
第49話 寺平重助の思惑(小田原喜一郎視点)
息子の智がまた余計なことをしてくれた。
会社の専務室で小田原喜一郎は頭を抱える。
ダンジョンで多発したハンターによる殺人事件。
それに息子が関与していたことを知った小田原喜一郎は心底に呆れ果てていた。
今回は加害者によって正気を失わされた被害者ということで、逮捕をされるということはなかったが……。
「クソっ!」
自宅謹慎しているはずの智がこうなったことで社長からは大目玉だ。智の代わりに平謝りをさせられて喜一郎は虫の居所が最悪だった。
智は家にほぼ監禁状態で閉じ込めてある。
自由にしておけばまたどこへ行って余計なことをするかわからない。
今回も前回も、智は白面というダンジョン探索者に暴行を受けたらしい。それをかなり根に持っていて、復讐を考えているようだが……。
しかしあれはかなりの実力者だ。動画をいくつか見たが、とても智がどうにかできるような相手ではなかった。
智は完全に白面への復讐心に憑りつかれている。仕事のことなど、今のあいつにはどうでもいいことのようだった。
あいつはもうダメだろう。
仕事への復帰など微塵も頭に無い。
それに今回前回と報道や配信で顔と名前を晒されてしまったし、会社に戻してもまともには働けないだろう。
いずれ伊馬を社長から引きずり降ろしたのち、自分が社長になって智を重役に置くつもりでいた。その考えがパーだ。
どうしてこうなってしまった?
原因はあの白面という探索者とアカツキという配信者だ。あの2人がいなければこんなことにはならなかった。
「俺の考えを台無しにしやがって……」
このままでは腹の虫が治まらない。
なんとか意趣返しをできないものか。
「あいつを使うか」
喜一郎は個人的にダンジョン探索者のひとりを雇っている。
なぜ喜一郎が個人的に探索者を雇っているのか?
それはダンジョンの魔物から採れる麻薬の材料を手に入れるためだ。雇っている探索者にその材料を手に入れさせ、自分の確立した販売ルートで売り捌く。この麻薬の密売で喜一郎は密かに財産を築いていた。
雇っている女はかつてプラチナ級だったが、殺人でクラスを剥奪されている犯罪者だ。とはいえ、国家ハンターごときに捕らえられる奴ではなく、好き放題に活動している。
頭のおかしい女だが、強さは本物だ。奴に任せれば白面とアカツキを始末できるはず。だがもしも返り討ちにでもされれば、奴と自分の関係が暴露されかねない。それに白面とアカツキは有名人だ。殺されたとなれば話題になり、下手をすれば自分が殺害を指示したことが露見する可能性もある。
事は慎重に運びたい。
まずは白面とあのアカツキとかいう女がどこの何者なのか調べよう。なにもダンジョン内で始末する必要は無い。どこの誰かわかれば、寝込みを狙って消すことだって……。
と、そのとき内線が鳴る。
「専務、寺平議員よりお電話が入っております。お繋ぎしてもよろしいでしょうか?」
「当たり前だ」
国会議員の寺平重助には多額の献金をして懇意にさせてもらっている。有力な議員との繋がりはいざというとき強力な後ろだてになると考え、喜一郎は麻薬で儲けた金で寺平に献金をしていた。
「お待たせしました。小田原でございます」
「やあ小田原さん、お忙しいところに電話などかけて申し訳ありませんな」
「いえいえ、先生からお電話でしたらいつなんどき、多忙でも喜んでお受けさせていただきますとも」
「ははは、それはありがたい。それでさっそく用件ですが小田原さん、あなたが雇っている探索者を私に貸していただけませんか?」
「あの女を寺平先生に? それはどういうことでしょう?」
「ええ。小田原さんはグレートチームをご存じですか?」
「グ、グレートチーム? ええまあ」
確か3年一度行われている探索者チームの大会だったか。
「私のチームをグレートチームに参加させる予定なんですよ」
「ではあの女を寺平先生のチームに加えたいというお話ですか?」
寺平もチームを所有しているというのは初耳だが、とりあえずそのことついては置いておき、
「しかしあの女はそういう大会に参加できるほど真っ当では無いので……」
あの女は殺人犯だ。大会などに出られるわけはない。
「いえそういうわけではありません。ふむ。ここから先は電話で話すようなことではないので、会って話せませんか?」
「ええ、もちろん」
一体どのような話があるのか?
日時は今夜。会う場所を決めて電話を切った喜一郎は、寺平の話がなんなのかを考える。
智が関わった事件で彼の息子が捕まったのは知っているが、もしやその件となにか関係のある話だろうか?
それは今夜、会って話せばわかることだろうと、喜一郎はふたたび白面を始末する手段について考え始めた。
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