第50話 白面、アカツキ殺害計画(小田原喜一郎視点)

 終業後、喜一郎は約束の場所である料亭へと足を運ぶ。

 従業員に座敷へと通されると、すでに寺平は席へとついて喜一郎を待っていた。


「お待たせして申し訳ありません」

「いやいや、私も今さっき来たところですよ。ささ、どうぞお座りください。まずほ一杯やりましょう」

「これはどうもすいません」


 座敷に敷かれた座布団に腰を下ろした喜一郎は、寺平の酌で酒を呷る。


「さ、先生もどうぞ」

「これはどうも」


 返杯を受けた寺平も酒を呷った。


「さて、では酔う前に例の話をしておきましょうか」

「ええ」


 杯を置き、喜一郎は寺平の言葉を待つ。


「私の息子が逮捕されたことはご存じかと思われますが」

「はい。私の息子も関わっておりましたので」

「そうでしたな。息子が大変なご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません」

「いえ、先生が謝ることでは。しかしご子息があのような大事件を起こしてしまって、先生のほうは大丈夫なのですか?」


 息子が大量殺人を行ったのだ。

 父である寺平重助の議員活動にも支障が出るのではと心配をしたが。


「なに、息子は心神喪失状態で正気では無かった。これは不幸な事故である。マスコミはそのように報道しますよ。一応、この件に関して会見は行いますがね。心神喪失状態の息子が行った悲劇を号泣しながら嘆き悲しめばそれで大丈夫でしょう」

「しかしそれでも世間からの風当たりはありませんか?」

「あるでしょうね。しかし息子のしたことであって、私のしたことではない。ならば私に対する批判など些細でしょう。世間などいずれ別のことに興味を持って、今回の事件など忘れてしまいますよ」

「それもそうですな」


 今回の件で心労に身をやつしているかと思いきや、さすがは老獪と言われる大物政治家だ。これくらいのスキャンダルではビクともしないたいした胆力である。


「はは、さすが寺平先生です。私も先生の胆力を見習いたいものですな」

「なにをおっしゃる。小田原さんもなかなか胆力のいることをしているじゃありませんか。あなたが雇っているあの女。私にはあれを扱うような度胸はありませんよ」

「いや、ははは」

「それで、その女を私に貸していただきたいという話ですが、先ほど話した息子の件とも関係がありましてな」

「それはどういうことですか?」

「うむ。息子の件はなんとかなりそうなんですが、このままでは腹の虫が収まりませんのでな。あの白面という探索者とアカツキという配信者に意趣返しをと考えておりまして」

「お、おお」


 寺平も同じことを考えているとは。

 意外でもないが、やや驚いて見せた。


「その反応を見るに、小田原さんもご子息の件であの2人に意趣返しをしたいとお考えではありませんか?」

「はあ、まあ。私は連中を始末したいと考えてはおりますが」

「ならば話が早い。実は私もダンジョンのチームを持っておりましてな」

「先生もチームをお持ちとは初耳でした。しかしどうしてチームの所有を?」

「ダンジョンというのは面倒事を処理するのに適しておりましてな。面倒事が起こった場合はチームを使って処理をさせているんです」


 その面倒事に関して尋ねるのは野暮というものだ。

 ダンジョンで処理できる面倒事など、聞かずとも想像はつく。


「元々はチームを2つ所有していたんですがね。1つは潰されてしまいまして。レイカーズというチームですが、恐らくご存じかと」

「お、おお。例の事件のですか」


 智が入っていたチームで、事件が発覚したしたことで壊滅した。


「まさか例のチームが寺平先生の所有していたものだったとは」

「ええ。女を確保しておけばいろいろ使えましてね。潰されてしまっていろいろと迷惑を被りましたよ。この件でもねぇ」


 はははと重助は笑うも、目はひどく冷徹であった。


「逮捕されたチームメンバーはいろいろ手を回してみんな釈放させてやりましたよ。小田原さんのご子息も釈放されたでしょう?」

「あれは先生が……」


 有能な弁護士を雇いはしたが、釈放させるのはかなり難しいと言われていた。証拠不十分になったのは弁護士の尽力かと思っていたが、実際は裏で寺平が手を回してくれていたようだ。


「いやそうとは知らず、今の今までお礼を言えずに申し訳ありませんでした」

「構いませんよ。全員を釈放させるつもりでしたから、その中に智君がいたというだけのことです」

「そう言っていただけると……」

「それよりも釈放させたレイカーズの残党ですがね、もうひとつのチームに入れて養ってやってるんですよ。釈放されたとはいえ、逮捕はされてますからね。ほとんどが職を失ったり学校を退学処分になったり、配信や報道で顔と名前が世間に晒されてしまってますからね。行き場が無いんです」

「は、はあ」


 智の顔と名前も晒され、その件で会社には多くの電話がかかってきて対応には苦慮したことを思い出す。


「しかしどうしてその連中を養うなど……?」


 情などでは無いだろう。

 そんなものをかけたりしない人物であると喜一郎は知っていた。


「事件のせいでまともには暮らせない連中ですからね。養ってやれば私に感謝するでしょう? 家族や友人からも見捨てられた連中です。頼れるのは私しかいない。言えばなんでもやってくれますよ。お膳立てと後始末をしてやれば殺人でもなんでも、ね」

「な、なるほど」


 転んでもただでは起きない。転んだことすら存分に利用してしまう。

 ひどく有能な人物だと、喜一郎は重助を恐ろしく思った。


「それで、残ったもうひとつのチームですが、こっちはまあ始末専門で」


 と、重助は首の前で親指を横へ引く。


「レイカーズの残党を受け入れたことでメンバーが400人ほどになりましてね。だいぶ大所帯になりましたよ。この400人と小田原さんの雇っている女で白面を始末しましょうということです」

「ちょ、ちょっと待ってください。グレートチームの参加上限は20人までですよ? 400人とは……どういう意味ですか?」


 ルールを知らないわけじゃないだろう。

 なにか意図があるのだと思った。


「大会中に一般の探索者がダンジョンへ入ってはいけないということはありません。大会に参加させるのとは別に、大半を事前にダンジョンへ入らせて置くということです」

「なるほど。大会に参加するメンバーとそれ以外のメンバーを使って白面とアカツキを始末、というわけですな」

「いいえ。この400人は演出ですよ。大会を盛り上げるためのね」

「と言いますと?」

「私はグレートチームのメインスポンサーを務めているライ通の会長とは懇意にさせてもらっていましてね。盛り上がるネタを提供してあげたいんですよ」

「は、はあ」


 ライ通とは大手の広告代理店だ。そこがグレートチームのメインスポンサーというのは知っているが。


「グレートチームに話題のアカツキを参加させれば大会は盛り上がる。大会が盛り上がればスポンサーは大喜びします。しかしただ参加するだけではつまらない。大きな盛り上がりには、アクシデントが必要でしょう」

「アクシデントですか?」

「そうです。例えば話題の人物が大会中に仲間割れをして護衛対象を殺してしまうなんてどうでしょう? そして殺したその極悪人を私のチームで追い詰めて最後に殺す。どうです? 盛り上がると思いませんか?」

「それは……つまり」


 あの女のスキルを使えということだろう。


「彼女のスキルを使えば白面を殺すことなど簡単でしょう。しかしそれではおもしろくない。奴を社会的にも殺して、大会を盛り上げるのです」


 満面に邪悪な笑みを浮かべる寺平重助に小田原喜一郎は寒いものを感じる。


 悪魔のようなことを平気で考える人だ。

 ただ始末するだけを考えていた自分を、喜一郎は甘く思った。


「そ、それは良い考えですが、しかし奴らがグレートチームに参加してくるかどうかはわからないのでは?」

「ライ通から大会運営に提案してもらってアカツキへ大会出場の招待状を送らせました。アカツキが出場するならば、白面も出てくるでしょう。まあ、アカツキが招待を拒否するようならば、正体を調べて寝込みでも襲って始末しましょうか」


 酒をちびりとすすりつつ、寺平は嘲笑うようにそう言う。


「それで小田原さんどうしますか? 私の提案に協力していただけますかな?」

「も、もちろんです。素晴らしい提案をしていただいて、ぜひ協力させていただきたいと思いました」

「ははは、小田原さんならそう言ってくださると思っていましたよ。さて細かいことは後日に決めるとして、今日は飲みましょう。ははは。いや愉快」

「ははは……」


 正直、あまり乗り気ではない。

 喜一郎としては白面を始末できればいいのだ。こんな回りくどい方法を取らず、身元を調べて寝込みを殺せばいいと思う。

 しかしこの提案を断ればどうなるか?

 それを考えると、断るという選択はできなかった。


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