第51話 いざグレートチームへ出発

 グレートチームの開催日となり、俺とアカネちゃんは待ち合わせ場所へと集まる。

 向かうのはいつも行っているダンジョンではなく、海辺にある入り口の広いダンジョンだ。家からは遠いため、電車で行こうかと話したが、無未ちゃんが車を出してくれると言うので俺とアカネちゃんは待ち合わせ場所の駅で待っていた。


「アカネちゃんは……やっぱり優勝する気だよね?」

「当たり前。優勝したほうが配信が盛り上がるもん」

「うんまあ、そうだよね」


 優勝をするには深層へ行く必要があるだろう。

 俺はそれが怖かった。


「ねえやっぱ出場辞めて帰らない? 深層はまだあぶないしさ」


 無未ちゃんをチームに入れて一時は安心をしていたが、万が一を想定すればやはりアカネちゃんを深層に行かせるのは怖かった。


「今さらなに言ってんの? 配信の予告出しちゃったんだし、これから出場を辞退して帰るなんて有り得ないから」

「だよねぇ」


 予想通りの答えであった。


 まあブラック級の無未ちゃんもいるから大丈夫だろう。


 いざとなったら無理やりにでも連れて帰る。

 そうすることでアカネちゃんに嫌われたとしても、彼女を守るためにはしかたないと俺は覚悟を決めた。


「というかアカネちゃん、なにその恰好?」


 アカネはなぜか顔だけ出した猫の着ぐるみを着ていた。

 顔にはいつものサングラスとマスクなので、姿はすごく異様であった。


「大会でテレビとか配信で中継が入るから、外見が映らないようにと思ってね」

「ああ」


 そういえばアカネちゃんはアンバランスな体形を気にしてVTuberをやっているんだったか。体形を隠すのに着ぐるみは最適とは思うけど、


「でも最近はダンジョンへ行くとサインとか握手を求められたりするし、あんまり意味ないんじゃない?」


 いろいろあって有名になったせいだろう。

 俺とアカネちゃんがダンジョンへ行くと、配信前や終了の隙を見てファンの人がサインや握手を求めてくることが多々あった。


「まあそうだけど、テレビや配信に映ったら全世界に晒すことになるじゃない? さすがにそれはちょっとねって」

「それはまあそうだね」


 俺はアカネちゃんの身体を魅力的に思うが、やはり彼女にとってはコンプレックスのようで、できるだけ晒したくないという気持ちは理解できた。


「けどなんで猫なの?」

「猫が好きだから」


 そこは単純な理由であった。


「そろそろ来るかな」


 約束した時間までもうすぐだ。


「うん?」


 なんだかすごい豪華な車が目の前に止まる。

 リムジンというやつだ。


 まさかこれじゃないだろうと、その車を気に留めずにいると、すぐに運転手が降りてきて後部座席の扉を開く。と、


「小太郎おにいちゃん」

「あ」


 中から黒ドレス姿の無未が降りてきて目を見開く。


「お待たせ。行こうか」

「えっ? あ、う、うん。あの、すごい車だね」


 車を出してくれると言うので、てっきり無未が運転してくるものだと思っていた。

 まさか運転手付きのリムジンとは、予想もできないことだ。


「別にたいしたことないって。さ、乗って乗って」


 無未に誘われてリムジンに乗り込む。


 中も豪華だ。

 こんな車に乗れるなんて、まるで金持ちになった気分である。


「無未ちゃんお金持ちだったんだね」

「ま、まあ、少しだけね」


 考えてみれば無未はブラック級の探索者なのだ。

 深層の魔物から獲れる素材は数千万とも言われるし、ブラック級の無未が金持ちなのも当然であった。


「本当、少しだけだね。うちにある車のほうが豪華だし」


 車に乗ってシートへふんぞり返ってアカネが言う。


「じゃあ、あなただけその豪華な車に乗って行けばいいんじゃない?」

「いいけど。じゃあうちの車で行こうかコタロー」

「ちょっとっ! 小太郎おにいちゃんは連れて行かないでよっ!」

「コタローはわたしと一緒に行きたいの。ね、コタロー」

「いやまあその……このまま3人で行くのがいいと思うよ。時間も無いし」

「ん……うんまあ、それもそうだね。じゃあ我慢してあげる」


 と、アカネが手招きするのでその隣に座る。


「おほぉっっ!?」


 アカネが俺の腕をとってぎゅっと胸に抱く。

 分厚そうな着ぐるみ越しでも存分に感じられるこの豊満な乳肉。この心地良さ、大きさはまさに究極のおっぱいであった。


「ふあ……少し眠いからこのまま寝るね」

「う、うん」


 ふんわりとした感触に全身が安らいだ俺も眠ってしまいそうだった。


「わ、わたしだってっ!」

「ふぁほぉぉっ!?」


 無未ちゃんががばりと抱きついてくる。

 胸板に押し付けれるたわわに実った柔らかい暴力。こんなものを行使された男は絶対に屈してしまうだろう嗜好のおっぱいであった。


 目線を下げればそこには男を喜悦という奈落に落とす谷間が……。


「小太郎おにいちゃん……」

「ちょ、無未ちゃん顔近いってっ!」


 目線を前に戻せば至近距離まで無未の顔が迫る。

 あと数ミリで唇と唇が触れそうなほどだった。


「キス……しちゃおうかな」

「えっ? ちょ、待ってっ!」


 近づく無未の唇。

 触れるかと思われたその瞬間、グイと腕を引かれて唇が逸れる。


「そんなことさせないから」


 俺の腕を抱き締めて、キッとアカネは無未を睨んでいた。


「こ、この……小太郎おにいちゃんから離れろーっ! 車から降りろーっ!」

「嫌だ。あんたが降りたら?」

「わたしの車なんだけどーっ!」


 ……賑やかに騒ぐ中、車は出発する。


 チーム対抗なのだが、チームメンバーの仲がこんな状態で大丈夫なのか?

 ますます不安になる俺だった。

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