第48話 しあわせではある
「あ、っと……」
そういえば前に会ったときに住所を教え合ったんだった。
しかし連絡も無しにいきなり訪問してくるとは。まあアカネちゃんも連絡はなかったので今さら驚くことでもない。
「きゅ、急に来てごめんね小太郎おにいちゃんっ。もう遅いから家にいるかなって思ってその……訪ねてみたんだけど」
「あ、いや、今日は有休でずっと家にいたんだ」
「あ、そ、そうだったんだ」
照れたように無未ちゃんは笑う。
「っと、あ、今開けるから」
そう思ったとき、
「なに? 誰が来たの?」
「ア、アカネちゃん」
横からひょこっと出てきてアカネちゃんがインターホンのモニターを覗く。
「なんだ女王様か」
「こ、この声……。あなたは」
一転して無未ちゃんの顔が険しいものへと変わる。
「今ちょっと取り込んでるからあとにしてくれる?」
「取り込んでるって……?」
「こういうことだから」
と、アカネちゃんは俺の腕を掴んでおっぱいの谷間で挟む。
「うほぉ!?」
その瞬間、俺の中から理性を持った大人の男が消し飛ぶ。
こうなってしまうともう俺はおっぱいが無いと生きられない赤子と同じなのだ。
「日を改めてくれる? コタローとこれからすることがあるの」
アカネちゃんにそう言われた無未ちゃんの目が漆黒の女王ディアー・ナーシングの冷たい目へと変貌していく。そして次の瞬間、無未ちゃんの全身を大きな黒い手が覆う。
「あ、あれ?」
そして無未ちゃんの姿は消えた。
どこへ行ったのか? インターホンのモニターからは確認できなかった。
「小太郎おにいちゃん」
「うわぁっ!?」
背後から声が聞こえて俺は驚いて声を上げる。うしろには笑顔で無未ちゃんが立っていた。
「えっ? えっ??」
一体どこから?
部屋に満ちる2つの良い匂いに鼻を鳴らしつつ、俺は困惑に頭を悩ませた。
「あ、ちゃんと靴は脱いだから大丈夫だよ」
「あ、いや、どうやって家に入ったのかなって……」
「ああ。わたしのスキル『闇を統べる女王の観衆』を使ったの。スキルの力で自分を飲み込ませて、別次元を通って移動したみたいな」
「く、空間転移みたいな?」
「そういうのじゃないよ。ちゃんと歩いて入ってきたしね。通常では認識できないけど存在している場所を通って部屋に入ったってこと」
「そ、そう……」
よくわかんないけど、そういうことらしい。
「どうでもいいけど、勝手に入って来ないでよ」
俺の腕をぎゅっと掴んでアカネちゃんが吠える。
「小太郎おにいちゃんが言うならわかるけど、ここの住人じゃないあなたが言うことじゃないでしょ? もう遅いんだし、あなたは帰ったら?」
「余計なお世話。コタロー、この人に帰ってもらって」
「いや、用があって来たんだろうし……」
「小太郎おにいちゃんっ」
と、無未ちゃんはアカネちゃんが抱いているのとは反対の腕を掴んで自身の豊満過ぎるおっぱいの谷間へと挟む。
「うわふぉおおっ!」
両方の腕に甘美なる柔らかな感触が。
こんなしあわせがあっていいのか? いや、少し冷静になると、この状況がしあわせかは疑問であった。
「わたしは小太郎おにいちゃんとお話をしに来たの。だからお子様は帰りなさい」
「帰るのはあなた。というかコタローに触らないでよ」
「あなたこそわたしの小太郎おにいちゃんから離れなさいよ」
2人の巨乳美女が俺みたいなおっさんを取り合っている。
これは夢か?
夢だとしても、これほど魅力的な2人にこんなおっさんを取り合わせてしまうなど大変に申し訳なかった。
「ま、まあ2人とも落ち着いて。ね」
「コタローっ! この人に出て行けっていいなさいっ!」
ぎゅーっと谷間が腕を挟む。
「ふぁ、ふぁいっ!」
「小太郎おにいちゃんっ! この子に出て行くように言ってっ!」
反対側の腕もぎゅーっと谷間に挟まれる。
「ふぁ、ふぁいーっ!」
もうどうしていいかわからない。
ただ腕がしあわせ。もうそれだけだった。
「コタローに変なもの押し付けないでっ!」
「あなたこそっ!」
「と、とりあえず落ち着いて座ろう。あんまり大声出すと近所の人にも迷惑だから。ね。お願いだから」
「むー」
「わかった。小太郎おにいちゃんがそう言うならそうする」
なんとか2人は座ってくれる。
しかし俺の腕を離すことはなかった。
「あ、それで無未ちゃんはなにか用があって来たのかな?」
「用が無かったら来ちゃダメ? 小太郎おにいちゃんに会って話したかっただけでも」
「いや別にそういうわけじゃないけど」
「用も無いのに来るなってコタローは言ってるの。察したら?」
「女子高生のあなたが来るほうが迷惑でしょ? もしもあなたがこの部屋に入るのを見られたら小太郎おにいちゃんが近所の人からどう思われるかとか考えないのかな? 下手したらお巡りさん来るからね」
それはそう。
とは言え、迷惑とは思っていない。アカネちゃんが側にいるのは単純に嬉しい。
用も無く無未ちゃんが来るのも別に構わないことだ。
「ふん。じゃあ今度からうちに呼ぶし。それなら問題無いでしょ」
大ありだ。
社長の家でアカネちゃんとこんな状況になったら生きて帰れる気がしない。
「ああ言えばこう言って、ほんと生意気な子っ!」
「まあまあ。あ、そういえばそろそろグレートチームっていう大会が開催されるみたいだね。無未ちゃんは知ってる?」
言い争いを止めるため、俺は思いついた話題を口に出す。
「あ、うん。知ってるよ。招待状とかくるし」
「招待状?」
「参加すれば大会が盛り上がるからって、ブラック級には招待状を送っているみたいなの。まあ興味無いから参加はしないけどね」
「そうなんだ」
と、そこで俺は思いつく。
「あ、じゃあもしよかったら俺たちと一緒のチームで参加しない?」
ブラック級11位の無未ちゃんがいれば深層も余裕だろうし心強い。
それに配信も盛り上がると思って俺は提案をした。
「小太郎おにいちゃんたちと一緒に? うんいいよ」
「あ、ありがとう」
あっさり快諾してもらい俺は礼を言う。
これで配信がバズるとアカネちゃんも喜んでくれるはず……。
「むー」
しかしアカネちゃんは不満げな顔で俺を見上げていた。
「ア、アカネちゃん……ダメだった?」
「……別に。配信的にはいいと思うけど」
そうは言うもアカネの表情は不愉快が極まっていた。
「それじゃあチームリーダーはわたしだからね」
「あ、うん。アカネちゃんの配信なんだしもちろん」
「じゃあリーダー命令。そこのおばさんは家に帰りなさい」
「おば……っ」
もともと冷たい雰囲気がある無未ちゃんの目が一層に冷える。
「小太郎おにいちゃんっ! このガキんちょ追い出してよっ!」
「うひぃーっ!」
「コタローっ! このおばさんを追い出しなさいっ!」
「はひぃーっ!」
両腕に幸福を感じながら俺は叫ぶ。
今の俺はしあわせだ。巨乳のかわいい女の子に胸を押し付けられるなど、しあわせ以外の何ものでもない。
しかしなぜこれほどの美女2人がこんなおっさんを取り合って争うのか? わけがわからなくて俺はただただ困惑していた。
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