かつて異世界で最強の魔王をやってた平社員のおっさん ダンジョンで助けた巨乳女子高生VTuberの護衛をすることになったけど、今の俺はクソザコなんで期待しないでね
第34話 無未を救った王子様(鹿田無未視点)
第34話 無未を救った王子様(鹿田無未視点)
白仮面の彼が何者かは考える必要も無い。
「こた……」
名前を叫ぼうとした無未だが、小太郎の人差し指が仮面の前に立てられたのを目にしてハッと口を噤む。
「な、なんだお前は?」
小太郎に殴り飛ばされた男がのそりと立ち上がってこちらを睨む。
「彼女の友人だ。どういう状況かは知らないけど、彼女に危害を加えるつもりなら容赦はしないぞ」
「お、おにいちゃん……」
自分の危機に小太郎が助けに来てくれた。
その事実は無未の深い部分から喜びを湧き出させ、身は自然と震えた。
なんだろう? これ?
どんなに強い魔物を倒しても、強くなってクラスが上がっても、誰かを助けてお礼を言われてもこれほど嬉しさを感じたことはない。
不思議な感覚に無未はただただ困惑する。
「へっへっへ、女王様の友人か? だったら国王様か? それとも王子様か? いずれにしてもこんなところに出くわして不運だったなぁ」
寄生虫を身体に纏わせた寺平が近付いて来る。
「お、おに……いや、白面の君よ。昨今に多発しているダンジョン内でのハンターによる殺人はあやつが原因だ。あやつのスキル『寄生隊』に寄生されたハンターは正気を失って殺人衝動に支配されてしまうのだ」
「スキル……なるほど」
小太郎は無未を背後に寺平を見据える。
「お前がなんの目的でそんなことをしているかは知らない。けれど彼女に危害を加えるならば痛い目を見ることになるぞ」
「俺に痛い目を? 俺はプラチナ級108位だぜ? お前はそれ以上か?」
「俺はストーン級だ」
「がははっ! 笑わせやがる。死にに出て来たってことか。まあストーン級の実力でプラチナ級の俺を殴り飛ばしたことは褒めてやる。褒美に苦しませず『真空刃』で首を一瞬で落としてやるよ」
寺平の指が小太郎へ向く。
「ちょっと待ってください……」
正気を失った集団の中で誰かが声を上げ、男がひとり出て来る。
「なんだ小田原?」
寺平に小田原と呼ばれたその男はキッと小太郎を睨む。
「寺平さん、そいつは俺にやらせてください」
「別に構わないが、知り合いかこいつ?」
「ええ。そいつには借りがありましてね」
睨む男を見据えて小太郎はため息を吐く。
「どうしてお前がここに……いや、別にいいか」
「くく……殺してやるぜ仮面野郎。今の俺は寄生虫の影響で普段以上にお前を殺したくてたまらねぇぜっ! 死ねっ!」
そう叫んだ小田原が小太郎へ人差し指を向ける。と、
「ふん」
小太郎は右手を払う。
普通の人間にはきっとなにが起こったのかわからないだろう。
だが魔物ハンターとして多くの強力な魔物を倒してきた無未には見えた。
「あ、あれ? なんだ? な、なんで切り刻まれねーんだよ?」
困惑に顔を歪ませる小田原。
奴の指から透明の刃……なんらかのスキルが発動してそれが小太郎へ向けて高速で飛ばされた。しかし小太郎はそれを直前でかき消したのだ。
「そよ風を吹かせるスキルか? お前には似合いだな」
「て、てめえっ!」
激高した様子で殴りかかってくる小田原の拳をヒラリと避けた小太郎は、無防備な腹に膝を抉り込む。
「うご……あ……」
そのまま小田原は前のめりに崩れ、尻を突き上げた状態で倒れ伏した。
「……てめえ、一体なにをしやがったんだ?」
小太郎と小田原の戦いを悠然と眺めていた寺平だが、結果を前にして初めて表情を歪ませる。
「見ての通りだ」
「『真空刃』をどうやって防いだと聞いているんだ」
「そよ風を振り払っただけだよ。側にいる彼女の綺麗な肌にかすり傷でもつけるわけにはいかないからね」
「あ……」
それを聞いた無未の心臓は跳ねるようにドキンと鼓動する。
子供のころにあった淡い想い。
それが蘇ってくるようだった。
「ふ、振り払っただとっ? 『真空刃』は岩をも切り裂く切断系じゃ上位のスキルだっ! あんな虫でも払うような動きで消せるなんてありえねぇっ!」
「そんなにすごい風だったのか? そうは見えなかったけど?」
相手を煽っているとかそういう感じでもなく、本当にそうは見えなかったという風にきょとんとした様子で小太郎は答えていた。
「ふざけやがって。ふん。どうせそこの雑魚野郎がうまくスキルを発動できなかったんだろうさ。スキルもまともに使えねーなんてよ、呆れ果てるぜ」
「お前がどう解釈しようと構わない。それより彼女をこの糸から解放しろ」
「嫌だね。その女は俺の奴隷にするんだ。解放なんかしねえ」
「なら構わない」
小太郎が蜘蛛糸へ向かって腕を振る。と、
「あっ」
無未を捕らえていた蜘蛛糸は切断され、すべてはらりと地面へ落ちた。
「な……なっ!?」
その光景を前に寺平は目を剥いてあとずさる。
「お、俺のスキル『蜘蛛糸地獄』を切断しただとっ!? ストーン級のクソザコ野郎が……な、なんでそんなことを……」
「お前が俺よりクソザコだからだろ」
さも当然のように答えた小太郎を前に、寺平の顔は真っ赤に染まる。
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