第283話 小田原へ寝返る戸塚?(小田原智視点)

 ……反魔王の活動は連日連夜、世界中で起きている。

 あの仮面野郎は反乱勢力を殺さずに抑えているようだが、はたしてどこまでそんな甘い対応が続けられるものか……。


「奴が生きている限り反乱勢力は攻撃を続ける。収めるには反乱勢力を殲滅しなければならない。そうだろう? 戸塚?」

「その通りだよ」


 高級レストランのテーブルで自分の対面に座るこの男。

 戸津我琉真を前にしてニヤリと笑う。


「彼もそれはわかっている。しかしそうすることができない。それが彼の弱さだ。弱さのある彼に世界の支配などできはしない」

「だから俺に乗り換えたと?」

「君は彼と違って非情さを持っている。そして今の君には彼に対抗する力がある。だったら乗り換えない理由は無いだろう?」

「はっ、忠誠心の欠片もねーな」

「そんなものはそもそもないよ。僕の目的は世界が絶対的な平和と自由を得ることだ。君がそれを実現してくれるなら、僕がつくのは君になるというだけのこと」

「ああ、そうかい」


 平和と自由か。そんなものはどうだっていい。自分さえ好きに自由に、やりたい放題に生きることができれば他はどうだっていいんだ。


「俺がお前の目的を叶えることができないと知ったら裏切るか?」

「たぶんね」


 戸塚は口端に笑みを浮かべてそう答える。


 こいつはかつて佐野が仮面野郎を嵌めたとき、魔人のひとりミーシャを使ってメルモダーガと佐野を嵌め返したらしい。今回もあのときと似たような状況だ。しかし今回はそのときと違って、仮面野郎を助けた戸塚がこちらにいる。


 あのときのようなことにはならない。

 だが完全にこの男を信用するのも危険だ。少しでも妙な動きを見せたらすぐに殺しやろうと、智は考えていた。


 このまま仮面野郎を追い詰め、この反乱が最高に盛り上がったところでふたたび魔王城へ乗り込んで仕留めてやろう。


 奴はあのときに殺されかけてかなりビビっているはず。

 あのときに仕留めてやってもよかった。それをしなかったのは、奴に長く恐怖を与え続けるためだ。


 そしてなぶるように奴を痛めつけ、惨めに許しを請わせてから殺す。

 それが計画だった。


「くくく……」


 最高のショーが間近に迫っている。

 それが実感できた俺の心は女と犯しているような快感に満ち溢れていた。



 ……



 それから何日か経つ。

 相変わらず魔王への反乱は盛り上がっている。その火付け役たる自分を称賛する声は日に日に大きくなっていき、世界の誰しもが小田原智を勇者と呼んだ。


 ……だがここのところおかしなことが立て続けに起こっている。


 暗殺者だ。

 自分を狙った暗殺者がごく身近に現れることが多くなっている。


 ライブ配信で顔を晒したことが原因だろう。道を歩いていて襲われたことがある。

 今だ魔王を支持する者がいるならばそういうこともあるだろう。しかしそれがあまりにも多過ぎる。


 家で寝ていれば使用人に襲われる。

 外で食事をすれば従業員に襲われる。

 護衛に雇った奴にも襲われる。

 ガキに襲われたこともあった。


 どこでなにをしていても、1日に何度も誰かに襲撃を受ける。

 魔王軍の誰かという風ではない。どいつもこいつも普通に暮らしている一般人らしく、いつどこで襲われるかわからない状況だ。


 神からもらった力があるため、自分が雑魚に殺されることは無いと思う。しかしこうも襲われ続けると気持ちがまったく休まらない。


 なのでひどく疑心暗鬼となっており、目に入る奴がすべて敵に見えた。


「ずいぶんと怖い顔をしているじゃないか?」

「ああ?」


 自室で籠っていると、そこへ勝手に戸津が入って来る。


 こいつも襲撃者じゃないか?

 誰を見てもそう思うようになっていた。


「金を出して雇った使用人や護衛にも襲われるんだ。イラついてしかたがねーよ」

「世界がこんな状況でも魔王を慕う者もいるってことさ」

「ふん」


 まさかこいつが仮面野郎の指示でなにかしているんじゃないのか? しかし一般人を唆して自分を襲わせてどうなる? 仮にこいつがなにかしているとしても、目的がさっぱりわからなかった。


「明日は教皇と会って、魔王討伐へ向かうことを勇者として世界へアピールするんだろう? そんな怖い顔のままじゃあ良くないと思うよ」

「わかってる」


 世界最大の宗教である崇神教の教皇に勇者として認められるという、戸塚の提案で行われることになった大規模なパフォーマンスだ。これを経ることで自分は世界的に勇者として認められ、魔王討伐に箔がつく。なのでパフォーマンスとは言え、重要なイベントであった。


「マスコミや聴衆も大勢来る。勇者の誕生は全世界へ報じられて魔王討伐の機運はますます高まるだろうね」

「……」


 大勢が来る。その中にはまた襲撃者がいるかもしれない。

 それを考えると気が重くなった



 ……



 そして教皇と会う日がやって来る。


 教皇のいる教会には多くの人間が集まっており、戸塚の言っていた通り全世界のマスコミもここへ訪れていた。


 イベントの開始までにはまだ少し時間がある。

 教会の敷地内にある施設の一室でイベントが始まるのを智はひとりで待つ。


 今このときも誰かが自分を襲撃しようと狙っているのではないか?

 そんな気がして落ち着かなかった。


 そういえばここのところ皇の姿を見ていない。

 今となってはいてもいなくても構わないが、どこへ行ったのかは気になっていた。


「まさかあいつも俺を……」


 護衛や使用人にも襲われた。

 皇も自分を裏切ったのではと、そんな考えが浮かぶ。


 しかしあいつが自分を裏切るメリットなど無い。

 事が大きくなり過ぎてビビッて逃げたのだろうと、そう思うことにした。


 と、そのときの部屋の扉を叩く音が聞こえる。


「誰だ?」


 まさか襲撃者か。


 警戒しつつ、扉へ向かって声をかけた。


「崇神教の教皇エクスディメルです」

「……入れ」


 なんの用で来たのか?

 しかし姿を見るまでは信用できない。


 入って姿を見せるまで警戒は解かなかった。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 戸塚もかつては魔王様の敵だったので裏切りはあり得なくもなかったですね。

 このまま小田原と悪の道へ進んでしまうのか……?


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回、起こる異変に小田原は……。

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