第261話 デルタデイドは神竜?
「80年ほど前のことですね。亡くなったのは。と言っても竜の寿命は1万年ほどなので、我々からすればついこのあいだようなものですが」
「そうですか……」
無駄足になってしまった。
神龍がいないのならば、別の神獣を探さなければいけない。しかし連中がまた襲撃してこないとも限らないし、時間はかけていられなかった。
「神龍ではと考えられている竜ならばいますが……」
「考えられているっていうのは?」
「はい。神龍かどうかは生後に覚醒することで判明します。成人後に覚醒する者もいれば、生涯に渡って覚醒しない者もいると聞きます。数年前に覚醒を果たして神龍となったと考えられているのが里長のデルタデイドです」
「……それは本当なのか?」
「奴を支持する者らはそう信じております」
「あなたは信じていないと?」
「神龍に覚醒すれば特殊な力が宿ります。奴もそれらしいものを使うので、神龍なのかもしれません。しかし私は奴と因縁があるせいか、どうしても信じることができないのです。奴が神龍であるということにはなにか裏があるのではないかと」
「ふむ……」
協力が得られるかはわからないが、ともかく会ってみるか……。
「きゅー……」
「ん? うん……」
しかしデルタデイドという竜はコタツの父親を殺害し、里長の立場を奪った奴だ。手を貸してもらうのは躊躇する……。
「魔王様、どうされますか?」
「うん。とりあえずデルタデイドに会ってみよう」
「しかし魔王様は誘拐犯にされています。里長に会うのは難しいのでは?」
「うーん……」
それもそうなんだが……。
「では私がデルタデイドに話して会う約束をさせてみましょう」
「あなたが話せば会えそうか?」
「それはなんとも……。私はあの男に好かれているというわけではないどころか、嫌われていますからな」
「デルタデイドはあなたが俺たちを連れて行ったことをもう知っているはずだ。下手をすれば俺たちと一緒に追われる身になるんじゃないか?」
「そうなるかもしれません。しかしあなたにはヴァルヴェイン様を救ってもらった恩があります。この老竜でよければ力にさせていただきたいのです」
「美髯公……」
「それに当のヴァルヴェイン様も私に協力を頼んでいますのでな」
「きゅー」
「コタツ……」
アカネちゃんの胸に抱かれながらコタツはきゅーきゅーと鳴いていた。
「素朴な疑問なんだけどさ、なんで美髯公さんは人間の言葉が喋れるのにコタツ君はきゅーきゅーしか言えないの?」
「それはヴァルヴェイン様が私よりも竜としての質が高いからでしょう」
「どういうこと?」
「竜族にとって言葉は嘘を吐いたり逃げの口上を吐いたりと、弱き者が使うものとされています。竜の質が高いヴァルヴェイン様は強力な竜なので、言葉をなどは必要としないのです」
「そ、そうなんだ」
「きゅー」
つまりコタツは竜族の中でもかなり強い竜ということか。確かにすべての攻撃を無効化するコタツの能力は強力だ。竜の質が高いというのもわからなくなかった。
「では魔王様方はここでお待ちください。私はデルタデイドと話をしてきましょう」
「気をつけてくれ」
「はい。……もしも明日になっても私が戻らない場合は、申し訳ありませんが神龍のことは諦めてください」
「わかった」
「では」
そう言ってビグラビグイドは背中の翼を羽ばたかせて、天井の穴から外へと飛び立っていった。
―――デルタデイド視点―――
「なに? ヴァルヴェインが戻って来ただと?」
洞窟の奥で竜人の長から報告を受け、眉間に皺を寄せて問い返す。
「は、はい。先代の魔王に連れられて戻られました」
「面倒な……」
このまま戻って来なければ捨て置いてもよかった。しかし戻って来たとなれば放ってはおけない。
「すぐに始末しろ」
「は、せ、先代魔王をですか?」
「先代の魔王などどうでもいい。ヴァルヴェインだ。奴が戻って来たと知れば旧里長派の連中が奴を担ぎ上げようとするはずだ。そうなると面倒だからな」
自分が竜族の長になって何年も経った。しかし今だに旧里長派は存在していて、無視できないくらい大きな勢力として竜族に影響力を及ぼしている。その急先鋒がビグラビグイドだ。
「しかし奴らを連れて行った美髯公はどう致しましょう? 美髯公の前でヴァルヴェインを始末するのは……」
「うぅむ……」
それは確かにまずい。
奴もまとめて始末をして、魔王の仕業ということに……。いや、話に依れば奴は大陸魔王を3人とも殺したとか。そんな奴を相手にするのはリスクが高い。
どうしたらいいか?
白く大きな身体を揺すらせ、首を垂らして考えた。
「……なにか困っているようですね」
「うん? 誰だ?」
声のしたほうへ首を向ける。
そこには人間が2人。黒衣を纏った小柄な女と、黒仮面の女が立っていた。
「ふん。グラディエか。なにをしに来た?」
「ご挨拶じゃないですか。我々の後ろ盾があるからこそ、あなたの地位が確固たるものであることをお忘れですかな?」
「俺はイレイアに従っているだけだ。貴様にじゃない」
「私はイレイア様の命令で動いています。つまり私の言葉はイレイア様の言葉です。私に逆らうことがあれば、明日には別の者があなたのイスに座っているでしょうね」
無表情でグラディエはそう言う。
実際、大魔王イレイアとの繋がりがあるというのは大きい。奴との繋がりがあるおかげで、自分に逆らう者たちを完全に抑え込むことができていた。
人間を滅ぼすためにサクルサイラスから里長の座を奪ったというのに、人間と組むことでその座を盤石にできるとは皮肉なものだ。
しかしそれは今だけのこと。
人間などいずれは滅ぼしてやろうと、デルタデイドはひそかに考えていた。
「……それで、用件はなんだ?」
「はい。先代魔王の討伐にご協力いただきたいのです」
「奴ならすでに里へ入っている。ビグラビグイドが連れ行ったようだがな」
「存じています」
「貴様が奴らを里へ呼び込んだのか?」
「まさか。奴らは恐らく神龍を求めてここへ来たのでしょう」
「神龍だと?」
「そう。あなたのことです」
「……」
「奴はいずれここへ来ます」
「それで先代魔王を仕留めればいいということか?」
「いいえ。先代魔王は我々で足止めします。私の力で女をひとりここへ送るのでそいつを始末してください。そいつを始末すれば先代魔王を弱体化させることができるので」
「なんだかわからんがいいだろう。ついでにヴァルヴェインもここへ送って来い。奴らが連れている竜のことだ。奴には俺が直々に引導を渡してやる」
「いいでしょう。ではお願いしましたよ」
そう言い残して、グラディエと仮面の女は転移ゲートで姿を消した。
これでいい。
都合良く奴らが現れてくれたおかげで、ヴァルヴェインの始末はうまくいきそうだ。
「デルタデイド」
と、そこへ上空から緑色の竜が翼を羽ばたかせてやってきて目の前に降り立つ。
「ビグラビグイド。誘拐犯を匿うとはどういうことか説明に来たか?」
「戯言を話に来たのではない。デルタデイド、お前は本当に神龍なのか?」
「そうだが? それがどうした?」
「先代魔王が神龍の力を借りたいそうだ」
「ふん。ならばここへ連れて来るとよい」
「彼に協力をするのか?」
「そうするかどうかは会ってから決めよう」
「……」
意外な反応。そうとでも言いたげな表情でビグラビグイドはこちらを見ていた。
――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
デルタデイドははたして神竜なのか? 少し怪しい感じですね……。
☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
次回はグラディエの策略に嵌まる……。
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