第127話 魔人の正体を探りに被害現場へ

 ロンドンの街はずれから、建物の多い場所までやってくる。

 昨日のニュースで見た魔人の被害に遭ったという場所は、ビックベンという有名な時計塔のある場所の近くだ。ここはまだそこから離れているので、魔人の被害らしい光景は見当たらない。


「この辺は魔人の被害が無いみたい。じゃあタクシーで被害現場に向かおっか?」

「えっ? タクシー? 海外のタクシーって怖くない? 大丈夫? 乗って目的地に着いたら有り得ないくらいの料金を請求されたりしないかな?」


 海外だと日本人はぼったくられるとか聞いたから、不安でしかたない。


「ここイギリスのロンドンだよ? そんなに治安悪いわけないでしょ。て言うか、そんなことされてもコタローのほうが強いんだし、ビビることないでしょ?」

「いやでも、外人に英語で凄まれたら怖いし……」

「異世界に行ってた人がなに言ってんの。ほら行くよ」


 グイと腕を引かれてタクシー乗り場のほうへ連れて行かれる。


 外国でも物怖じしないこの胆力。

 初めての海外に不安な俺には、頼もしいことこの上ない。


「あ、俺イギリスのお金持ってないよ」

「クレジットカード」


 右手に持った黒いカードを見せられた俺は、ホッとすると同時にちょっと情けない心地になった。


 タクシーに乗り込み、数十分ほどで目的地に到着して降りる。


「……これはひどいなぁ」


 ここは魔人の被害に遭った場所だ。先ほどの街とは違い建物のいくつかは崩れ、悲壮感のある人々の姿がちらほら見えた。


 ニュースの映像より実際に見たほうが被害の深刻さがわかる。まるでここだけ大地震でもあったかのような惨状だ。当然だが、街行く人たちの雰囲気も暗かった。


「そろそろ動画の配信開始時間だから準備してね」

「うん。けど今回はダンジョンの配信じゃないし、俺はなにをしたらいいの?」


 倒す魔物はもちろんいないし、このあいだ行った海辺のときみたいに遊んでいればいいということもないだろう。


「わたしと一緒にここの人たちに魔人のことを聞いてもらうって感じで」

「でも俺、英語しゃべれないよ?」

「わたしが声をかけて通訳するから大丈夫だと思うけど……うーん。それだとレスポンスが悪くてテンポが良くないかも」

「ごめん。英語の勉強をもっとしとくんだった」


 まったくしゃべれないこともないが、現地の人と会話できるレベルではない。


「でもコタローは異世界に行ってたんだよね? そこの言葉はどうやって覚えたの? 英語より難しそうだけど?」

「ああ、それは魔法で……あっ」


 そういえばと俺は思い出す。


「しゃべる言語と聞く言語を自動的に翻訳できる魔法があったんだった」

「その魔法を使うとどうなるの?」

「自分がしゃべる言葉と聞く言語が、自動的に相手のしゃべる言語に翻訳されるんだ」


 俺を異世界に召喚した奴が使った魔法だ。

 この魔法のおかげで、俺は異世界人と会話ができた。


「じゃあその魔法を使えばコタローも英語がしゃべれるんだ?」

「自動翻訳されるだけだからしゃべれるとは少し違うけどね」


 俺は意識を集中し、翻訳魔法を自分にかける。

 ……これでイギリスの人とも会話できるようになった。


「大丈夫? 配信を始めてもいい?」

「いつでもおっけーだよ」


 親指も立てて準備OKを伝える。


「よーし、それじゃあ配信を始めるよー。3、2、1……こんにちはー☆アカツキでーす☆白面さんもいるよー☆」

「こ、こんにちはー」


 ぎこちなくあいさつ。


 いつまでたっても配信に出るのは慣れない陰キャの俺である。



 まんだ:はじまた


 ナイトマン:イギリスに行ってるってマジ?


 ぬまっきー:いつの間に?


 らんらん:魔人の正体って世界中各国が調べてるらしいけど、ぜんぜんわからないんだよね。さすがに一般人が正体を突き止めるのは無理じゃないか?


 タイガー:けどアカツキちゃんと白面さんならやってくれる気もするじゃん?


 めたどん:期待してるよー



 配信が始まり、コメントがずらりと流れていく。


 俺も魔人の正体を突き止めるのは難しいと思う。

 国が調べてもわからないのだ。ここにいる人に聞いても魔人の正体を知れるわけはないし、唯一の方法があるとすれば魔人を捕獲して聞き出すことくらいか……。


「ここは魔人の被害にあったイギリスのロンドンです☆あそこに有名なビックベンが見えますねー☆まずはここに住む人に襲撃してきた魔人について聞いてみようと思います。えっと……あ、すいませーん」


 側を歩いていたおばあさんにアカネちゃんが英語で声をかける。


「はい? あら……」


 声をかけたおばあさんが振り返り、なぜか俺をじっと見つめてくる。


「あんた……もしかして白面さんかい? 日本の……アカツキちゃんネルとかいうVTuberの動画に出てる?」

「えっ? あ、はい」

「まあ、やっぱりっ!」


 俺が白面と知ったおばあさんはキラキラと目を輝かせる。


 なんだろう?


 おばあさんの反応に俺は困惑した。


「おーいみんなーっ! 白面さんだよっ! あの白面さんがいるよーっ!」

「えっ? えっ?」


 大声でおばあさんが声を上げると、周囲の人間がわらわらと集まってきた。


 ――――――――――――――――


 ※10月より1日置きの更新になります。

  余裕ができましたら、また毎日更新へ戻そうと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る