かつて異世界で最強の魔王をやってた平社員のおっさん ダンジョンで助けた巨乳女子高生VTuberの護衛をすることになったけど、今の俺はクソザコなんで期待しないでね

第134話 逃げる魔人を追った先で見た者

　こいつには魔人の正体を聞く必要があるので、殺してしまわないように手加減はした。だがこの様子ではわずかなダメージも与えられていないようだ。

　魔力で身体を守っているのか？　いや、そういう感触は無いが……。

「その程度ですか？　ぜんぜん効きませんねぇっ！」

「くっ……」

　すくい上がってきた蹴りをうしろへ跳んでかわす。

　魔人のわき腹に傷は無い。

　本気では無いが、痣くらいはできる力で殴ったはずだ。

「ふん。まあまあやるじゃないないですか。けど、私の力はこんなものじゃありませんよ……ふんっ！」

「なにっ！？」

　魔人の筋肉がさらに膨張をしていく。

　肉体強化をさらに強めたか？

　いや、それにしては奇妙だ。強化を強めたならば身体を覆う魔力も増えるはず。それなのに魔人を覆う魔力に変化が無い。これは明らかにおかしかった。

「さあ第２ラウンドだっ！」

　ますます強靭となった魔人がふたたび襲い掛かってくる。

　いくらを身体をでかくしようと所詮はそれだけだ。魔法を使えば簡単に倒せる。魔人の正体を聞き出すのが難しそうなら、最悪、倒してしまえばいい。

　そう考えているが……なにかすごく嫌な予感がする。

　こいつにはまだ恐ろしい秘密があるのではないか？　そんな気がしてならない。

「死ねぇっ！」

　先ほどよりも素早く、強力になった攻撃を避け続ける。

　どう見てもこいつはただの怪物だ。

　倒してしまっても問題は無いはず。なのにこの嫌な予感はなんなのだ？

　俺は攻撃を躊躇しつつ、嫌な予感の理由を考察した。

「くっ、ちょろちょろと逃げ回って鬱陶しいですねぇ。……ぐっ……う」

「？」

　魔人が急に苦しそうな声を出す。

「ちっ、もうガス欠ですか。ここは一旦、引くしかありませんね」

「ガス欠？　なにを言ってるんだ？」

「命拾いをしましたね。カカ……けど次はありませんよ」

　踵を返した魔人がものすごい速さで逃げ去って行く。

「待てっ！」

　奴には聞くことがある。

　このまま逃がすものかと俺はあと追う。

　魔人は建物の角を曲がって路地へ入る。

　俺もそれを追って路地へ入るが……。

「！？」

　いない。

　見失ったのは路地へ入った一瞬だけだ。

　感じていた魔力も消滅し、魔人は姿を消していた。

「どこへ……うん？」

　誰か倒れている。子供だ。

「あれは……」

　俺はその子供の側へ寄る。

「ケビン……君？」

　倒れていたのはケビン君だった。

　酷く衰弱している様子だが、死んではいない。

「どうしてこんなところに……？　むっ……」

　ケビン君の身体からわずかに魔力を感じる。

　まさか魔人の正体がケビン君？

　そんな馬鹿なと思いつつ、感じる魔力がケビン君の右腕から発せられていることに俺は気付く。

「右腕に……なにか」

　袖を捲ると、腕に赤く英語が書かれていた。

「剛力……か？」

　そう書かれた文字から魔力を感じる。

　それは血で書かれており、擦ってみるが消すことはできない。

「ただ書かれているんじゃない。血液に魔力を込めて腕に刻印しているんだ」

　これを消すのは少々、厄介だ。

　異世界には血液に魔力を込めて呪術を施す魔法があった。これがそれと同じものだとすれば、無理に消すのは危険だ。

「恐らく無理に解呪すれば……」

　刻印に触れて確かめる。

「やはりか」

　解呪トラップが仕掛けらている。

　これは誰かが解呪をすれば、解呪した者に同様の呪術が施されるものだ。それと同時に元々、呪術を受けていた者は死ぬようになっている。

「俺は平気だが、解呪をすればケビン君が危険だ」

　もっとも安全な解呪方法はこの呪術を施した術者を始末することだ。

　この呪術を施した者。

　それはケビン君本人に聞いてみるのが手っ取り早いだろう。

　この子が魔人の可能性はまだある。

　しかしこのままにしておくわけにもいかないと、俺はとりあえずケビン君を病院へ連れて行くことにした。