第43話 振り返れば仮面の男(伊馬アカネ視点)

 驚きの表情で加賀木がアカネから離れる。

 光の玉はアカネを守るように目の前に浮かんでいた。


「な、なんだこれはっ?」

「あ……」


 以前、ダンジョンで見た光の玉。

 これがコタローの魔法だとアカネは知っていた。


「ク、クソ、こいつ……」


 アカネに近づこうとする加賀木の手を光の玉が防ぐ。


 いつからこれが自分の側に?

 もしかしてコタローも側に?


 しかしそうだとしたらこれがここにある意味は無い。

 だとしたら……。


「あのとき?」


 あり得るとしたら先日ブティックで会ったとき。

 たぶんあのときだとアカネは思う。


 わたしのこと心配してくれて……。


 コタローは心配してくれていた。

 それなのにずっとイライラムカついていた自分があまりに子供っぽかったと、アカネは恥ずかしくなる。


「このっ! なんだよこれっ!」


 加賀木は光の玉に翻弄されている。

 一部でも、この男がコタローの力に勝てるとは思えなかった。


「あっ」

「こいつっ! うん?」


 うしろから加賀木の肩を指でトントン叩く仮面の男が……。


「今は取り込み中だっ! 向こうへ行けっ!」


 しかし加賀木は振り返らず光の玉を捕まえようと動く。


 トントン


「だから取り込み中だって……あ」


 ようやく振り返る加賀木。

 その表情がどんなかは察して余りある。


「あの……あなたは……白面、さん?」


 小太郎は黙って頷く。


「なぜここに?」

「お前、仏教徒か?」

「は? な、なんで?」

「葬式に坊主は呼ぶか?」

「そ、葬式? ま、まあ家族の誰かが死ねば坊主を呼ぶと思いますけど……」

「なら念仏を唱えろ」

「念仏? がぼふぁっ!?」


 顔面をぶん殴られた加賀木が激しく地面を転がった。


「2度と俺の女に近づくなっ! 次は殺すっ! 全身の骨を1本1本ゆっくり折りながら最後に頭を踏み砕いて殺してやるからなっ! 覚えておけっ!」

「ひ、ひぃいいいっ! す、すすすいませんでしたーっ! もう彼女には近づきませんんんーっ!」


 よろよろと立ち上がった加賀木が、腰を引けさせながら逃げて行く。

 そして空のボス部屋にはアカネと小太郎のみになる。


「ふん。あれくらい脅しておけばもうアカネちゃんには近づかないだろう。また近づいたら本当に殺してやる」


 物騒なことを言いつつ、小太郎の顔がアカネのほうへ向く。


「大丈夫? 怪我は無い?」


 さっきの怖い雰囲気とは違って、やさしく声をかけてくる。

 その様子にアカネの胸はドキリと高鳴る。


「ど、どうして?」

「えっ?」

「どうしてこんなに早く来れたのかなって」


 加賀木に襲われたのはほんの数分前だ。

 光の玉で危険を感知したとしても、こんなに早く駆け付けられるとは思えない。


「ああ、前に服屋でアカネちゃんにそいつをつけておいたんだけど、やっぱり心配だから配信日を調べてダンジョンの入り口まで来てたんだ。なにかあったらすぐに助けに行けるようにって」

「そうだったんだ……」


 大切に思ってくれている。

 それを実感した今、イライラやムカつきはいつの間にか消えていた。


「ごめんねアカネちゃん」

「えっ? ごめんって?」

「アカツキの配信で俺が目立っちゃって。ただの護衛なのにダメだよね。今度からはあんまり出しゃばり過ぎないようにするから……」

「なにそれ? コタローが目立ってもぜんぜん構わないけど?」

「えっ? だ、だってアカネちゃんなんか怒ってたみたいだし、アカツキのチャンネルで護衛の俺が目立ってたことが気に入らないんじゃないかって……」

「前に言ったでしょ? わたしは人を楽しませるのが好きなの。コタローが活躍して、ファンのみんなが喜んでくれるならそれでぜんぜんオッケーだし」

「そ、そうだったんだ」

「もしかしてそれを気にして今回のコラボにはついて来ないほうがいいって考えたとか?」

「まあ……」

「本当はわたしが他の男と2人っきりになるのは嫌だった?」

「うん」

「ふふっ」


 なんだか嬉しい気持ちになったアカネはがっしりと小太郎へ抱きつく。


「うはぁ……ア、アカネちゃん」


 おっぱいをぐいぐい押し付けてやると小太郎は蕩けた声を出す。


「心配してくれてありがとうコタロー。あとごめんね」

「ご、ごめんって?」

「胸さえでかければ誰でもいいなんて言って。わたしだってコタローの強さだけを見てたのに、そんなこと言えないよね」

「アカネちゃん……」

「でも今は違うよ。強さだけじゃない。コタローの良いところ、他にもたくさん知ってるから」

「お、俺だって、アカネちゃんの胸とか外見だけを見てるわけじゃないよっ。いやまあ、最初はそうだったけど、今は他にも良いところがあるって知ったし」

「ふふっ、そっか」


 さらにぐいぐい胸を押し付ける。


「うふぁあああ……。こ、これはらめぇ……ふは」


 小太郎はますます蕩けた声を上げる。


「なんか今ならコタローにおっぱい揉ませてあげてもいい気分なんだけど」

「ア、アカネちゃんのおっぱいを揉む……むはっ! 想像しただけでエクスタシーな心地に……い、いや、ダメだっ。淫行で捕まっちゃうからっ」

「ここじゃ不安? じゃあ今からコタローの家に行って揉む?」

「アカネちゃんのおっぱいを自宅でじっくりモミモミと……ムハモハっ! そんなことができたら俺はもう死んだって……い、いやいやそんな、女子高生を家に連れ込んだら本当に捕まっちゃうーっ」

「わたしはコタローの女なんでしょ? 少しくらいエッチなことしてもいいじゃない」

「あ、あれはあいつを脅すためで……むはぁっ」

「コタロー……」


 アカネは気持ちに任せてぎゅっとコタローを抱き締める。


 誰にも渡さない。絶対に。

 そんな強い気持ちを込めて、アカネは小太郎を抱き締め続けた。

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