第85話 ふたたび実家へ赴き兄と会う

 無未ちゃんからいろいろと聞いた俺は、ふたたび実家へと赴く。


 今日は日曜日だ。

 恐らく父はいるだろうと、俺は緊張に震える指で門柱のインターホンを押す。


「はい。どちら様でしょうか?」


 ややあって、若い女性の声で応答がある。


「あ、あの俺……いや、私はその、末松小太郎という者です。す、末松上一郎さんにお会いしたくて伺いました」


 声を震わしながら俺はなんとか言葉を絞り出して答える。


「末松……小太郎様? 失礼ですが、ご親戚の方でしょうか?」

「あ、は、はい。上一郎さんに確認していただければわかるかと」

「生憎ですが、旦那様は出掛けておられまして……」

「あ、そ、そうですか」


 この世界で父はジョー松の社長だ。普通のサラリーマンではない。

 日曜日なら必ずいると思ったが、少々、浅はかな考えだったかもしれない。


「あ……と、その、もしも忠次さんがおられましたら、私のことを確認していただきたいのですが」


 もしかしたらと俺は兄の名前を出す。


「忠次様でしたら、ご在宅でございます。少々お待ちください」

「は、はい」


 どうやら兄はまだ実家にいるようだ。

 すでに実家は出ているものと思っていたので少し意外だった。


 門の前でしばらく待っていると、


「お待たせしました。忠次様がお会いになるとのことです。門を開きますのでお屋敷のほうへお進みください」


 門が開き、俺は中へと入って屋敷へ進む。

 屋敷の前まで来ると、扉の前で使用人風の若い女性が頭を下げるのが見えた。


「いらっしゃいませ。ご案内いたしますのでどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 俺も頭を下げ、屋敷の中へと入れてもらう。

 それから長い廊下を通って応接間らしき部屋へと通された。


「そちらでお座りになってしばらくお待ちください」

「あ、はい」


 促された俺はソファーに腰を降ろす。

 ……どれくらい待っただろう。落ち着かずに脚を揺らしていると、こちらへ近づく足音が聞こえ、そして……。


「あ」


 扉が開く。

 入って来たのは、高級そうなスーツを着たメガネの男性だった。


「小太郎……か?」

「に……兄さん」


 雰囲気はまるで違う。

 しかし面影はある。だいぶ歳も取っているが、忠次兄さんで間違い無いと思った。


 会うのは17ぶりだ。まずなにを話したらいいか……。


 事前に考えていたはずが、緊張で思考がまとまらず言葉が出ない。


 ともかくソファーから立ち上がった俺は、身体の奥底から込み上げてくるものを感じつつ兄を見つめた。


「に、兄さん、ひさしぶ……」

「今さらなにをしに戻って来た?」

「え……」


 俺の呼びかけに対し兄さんの目は冷たく、言葉も冷え切っていた。


「17年だ。お前がこの家から逃げ出して17年の歳月が経った。今さら戻って来てもお前の居場所などこの家には無い」

「に、兄さん俺は……逃げたなんてそんなことは……」


 この世界の俺がどんな幼少期を送ってきたかはよくわからない。無未ちゃんの話に依れば、子供だった俺は勉強が大変だと言っていたそうだが……。


「ふん。お前は俺と違って出来が悪かったからな。大方、高校受験に失敗して父さんに叱られるのが怖くて逃げだしたんだろう。そのまま17年も戻って来ないとは、たいしたものだがな」


 そう言って嘲るように兄さんは笑う。


 ……こんな人じゃなかった。

 兄さんはよく笑う人だったが、こんな風に人を嘲笑ったりはしない人だったはず。

 この世界の兄さんは俺の知ってる兄さんと違うのか……。いや、それとも17年も戻って来なかった俺に対して憤りを感じているのかもしれなかった。


「ごめん兄さん。事情があって今まで戻って来ることができなかったんだ。心配をかけて本当に申し訳ないと思っているよ」

「心配? 誰がお前のことなんか心配するか」


 兄はふたたび嘲り笑う。


「お前は末松家の恥だ。お前などいなくなってくれて清々しているよ。父さんも俺もな」

「そ、そんな……」

「ふん」


 兄はスーツの懐に手を入れると、ソファー前のテーブルへなにかを投げる。


「小切手だ。それに好きな金額をかけ。それを持ったらすぐにここから出て行け。そして二度とこの家に近づくな。末松家の人間だと名乗ることも許さん」

「兄さんっ! 俺は金がほしいわけじゃ……」

「黙れ。金がいらないなら今すぐ出て行け」


 そう言い残して兄は俺へ背を向けた。


「あ、ま、待って兄さんっ。聞きたいことがあるんだけど……」


 その呼び掛けに兄は冷たい視線でこちらを振り返る。


「この前、雪華って子に会ったんだけど、兄さんの子供なのかなって」

「……雪華に会ったのか?」


 問いに対して俺は頷く。


「お前が知る必要は無いことだ」


 冷淡に言い放つと、兄は部屋を出て行ってしまう。


「兄さん……」


 残された俺はしばらくそのまま立ち尽くし、やがて部屋を出て屋敷の外へ出た。


「あんな人じゃなかったのに……」


 子供のころのやさしかった兄さんを思い出し、自然と涙がこみ上げてくる。


 17年も行方不明だったのは俺が悪い。

 だけどあんな冷たい言い方……。


 自分の落ち度を認めつつも、しかしやはりこの世界の兄さんは、自分の知っている兄とは別人だと思う。


「父さんも、兄さんと同じように思っているんだろうか」


 だとしたら悲しい。

 会って話せば、さっきの兄さんみたいに冷たい言葉を向けてくるかもしれない。しかしやはり会って話さなければという気持ちはあった。


「あ……」


 と、俺が実家の門を出るとそこへ一台の高級車が止まる。

 しばらくして運転手が降りて来て後部座席を開く。そしてひとりの男性がゆっくりとそこから降りて来た。


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