第108話 魔人を名乗る殺人者

「な、なんだ?」


 俺は無未ちゃんの巨乳から頭を抜いて海辺へ目を向ける。


 人々が海から離れて逃げて行く。

 海のほうを見ると、そこには何者かが立っていた。


「ぐはははっ! くたばれ人間どもっ!」


 紫色の肌をしたその何者かが右手を掲げる。と、海から竜巻のような水柱が昇り、


「死ねっ!」

「ぎゃああああっ!!!」


 水の竜巻が人々を襲い飲み込む。


「あれはスキルかっ!?」


 なんであんなことを?


 奴の目的がわからなかった。


「スキルを使った犯罪者ってやつ? けどあれって人間なの? なんか肌が紫だし、角みたいのが生えてるような……」

「わたしが止めてくるっ!」


 無未ちゃんが動こうとしたとき、


「てめえらも死ねっ!」


 水の竜巻が俺たちを襲う。が、


「ああん?」


 俺が指を鳴らすと水の竜巻は消失した。


「なんだぁ? なんで俺の水竜巻が消えちまったんだよ?」


 肌が紫色のそいつがこちらへと近づいてくる。


 額に角。

 何者かはわからないが、普通の人間ではないと思った。


「お前はなんだ? なんでここにいる人たちを襲ったんだ?」

「うるせえよ。そんなことをてめえらに教えてやる理由はねえだろっ!」


 ふたたび海に昇った水の竜巻が俺たちへ襲い掛かる。

 しかし何度やっても同じだ。水は同じく消滅する。


「なっ……この野郎っ!」


 無数の水竜巻が俺たちを襲う。

 それらはすべて消えて無くなり、攻撃の意味を成さなかった。


「な、なんだてめえらっ!? なにをしやがったんだっ!?」

「それを聞きたかったら、お前の目的をまず教えるんだな」

「俺の目的は人間を殺すことさっ! 人間を殺したときに発生する生命力を奪えば俺たち魔人はパワーアップするからなぁっ!」

「魔人? 人の生命力を奪ってパワーアップ?」


 なんだそれは?


 なにを言っているんだこいつはと、俺は男の言動を訝しむ。


「とにかくてめえらは死んで俺の力になればいいんだよっ!」


 男の叫びと同時に海から数え切れないほどの水竜巻が昇る。


「何度やっても同じだ。俺たちにその攻撃は通じない」

「お前たちに通じなくても、他はどうだろうなっ!」

「なにっ?」


 水竜巻が襲ったのは俺たちではなく、背後の道路を行き交う車や人々だった。


「はっはーっ! 死ね死ね死ねーっ!」

「無駄だ」


 指を鳴らと多数の水竜巻は一瞬で消える。


「な……っ」


 男はそれを見て目を剥く。


「いいかげんにしろ。これ以上は容赦しないぞ」

「うるせえっ!」


 男の手に海水が集まり、刀剣の形となる。


「死ねっ!」


 目前で振り下ろされるそれを俺はかわし、


「警告はしたぞ」


 右手で男の胸を貫く。


「がはっ!」


 胸から腕を抜くと、男はそのまま後ずさる。


「が……はっ。へへっ、やりやがったな。けどこんな傷程度……っ」

「なにっ?」


 胸に空いた穴がみるみるうちに塞がっていく。


 どうなっている?


 そういうスキルがあるのか?

 恐らくそうであると思うも、俺はこの男に不気味なものを感じていた。

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