第109話 魔人のスキルに感じた魔力

 こいつは普通じゃない。

 外見もだが、中身のほうもなにかおかしいと思う。


「お、おおっ。どうやらここの人間を何人かぶっ殺したおかげで、俺の力がパワーアップするようだぜぇ」

「パワーアップ? なにを言っているんだお前?」

「見てればわかる……グア……がっ……きたぜきたぜ。あぐあああっ!!」

「な……っ!?」


 男の右肩に巨大な角が生え伸びる。


 額と合わせて2本。

 身体に角を2本生やすという人間離れした男の姿が目の前に現れた。


「さあて、それじゃあ新しい力を試させてもらうか。くくっ」


 こいつは危険だ。

 とっとと片付けなければ大変な被害が出てしまうかもしれない。


「我に任せよっ!」


 無未ちゃんの声とともに男の足元から黒い手が出現する。


「ははっ、なんだこんなもの」」


 男の全身を水でできたた大きな玉が包む。

 黒い手はそれに阻まれ、男を掴むことができない。


「わ、我の攻撃が効かないだと……っ」

「このスキル、てめえブラック級の女王様ってやつか。ブラック級がこの程度じゃあ、俺たち魔人が世界を支配する日も近いな」

「俺たち? お前のような奴が他にもいるのか?」

「ここでくたばるてめえらが知る必要はねえよ」

「っ!?」


 いつの間にか俺たちを巨大な水の玉が覆う。


 中は水中で息ができない。

 水を消そうとするも……。


 消えない。

 これはただの水じゃないな。


 ……魔力?


 この水にそれを感じる。

 魔力で作られたものだ。この水は。


 どうしてこの男が魔力を?

 スキルじゃないのか……?


「がぼぼ……」

「ぼぼ……」


 水中で苦しそうにしている2人を見て俺はハッとして魔法を発動する。

 と、俺の身体に水が集まり吸収され、巨大な水の玉は消失した。


「な……にっ!?」


 男の表情が歪む。


「てめえ……なにをしやがった? 俺の『ウォータープリズン』をあっさり破りやがって……」

「魔力を吸い取っただけだ。返してほしければくれてやる」


 先ほど吸収した魔力を圧縮して小さな水球を作る。


「はははっ! なんだそりゃっ!」

「今からこれがお前の身体を破壊する。しっかりガードしたほうがいいぞ」

「そんなので俺の『ウォーターウォール』は破れねーよ」


 男の身体を水の玉が包む。


「さあどうかな?」


 男へ向かって俺は小さな水球を放つ。

 弾丸のように放たれた水球は『ウォーターウォール』とやら突き破り男の胸を打ち……


「がはっ!」


 瞬間、男を守る水の塊は消えて無くなる。


「な、なんだと……? 俺の『ウォーターウォール』を突き破りやがっただと? へ、へへ、けどこんな傷はたいしたことないぜ。すぐに……がぼあっ!?」


 男の全身が少しづつ膨らんでいく。


「こ、これぐぁ……っ!」

「俺の放った水球の魔力がお前の全身を巡って膨張しているのさ」

「な、に……っ?」

「それには俺の魔力も含まれている。お前が俺たちを沈めた水球の何倍にも膨らんで、やがてはお前を粉々に吹き飛ばす」

「ま、魔力だと? お前……な……ぎ……も……ど……?」

「何者かって? それはお前が回復できたら教えてやるよ」


 これ以上ないくらいに膨らみ切った男の身体。

 もはや話すこともできない男の身体はやがて……


「がべっ!」


 バンっ!


 と、大きな音を立てて粉々に破裂する。


 原形は留めていない。

 ここから回復してきたらたいしたものだが……。


 しかし男がふたたび俺たちの前に姿を現すことは無かった。


「な、なんだったのあいつ?」

「うーん……」


 アカネちゃんに問われて俺は考える。


 人間ではあったと思う。

 しかし姿は異様で普通ではない。


 そして使うスキルに魔力を感じたのが謎だ。


 この世界に魔法は存在しない。

 つまり魔力も無いはず。ならばさっきの男はまさか異世界から来たとでも言うのか? どこからどうやって?


 奴は自分のことを魔人とか言っていた。

 なんだ魔人って? 一体、奴は何者だったんだ……?


「けど、なんか大変なことになっちゃったね。今日の配信は中止かなぁ」


 さっきの奴が暴れたせいで、静かだった海辺は惨憺たる有り様だ。

 呑気に動画配信をしていられるような状況ではなくなってしまった。


「中止? だったら小太郎おにいちゃんはもういいよね? わたしが連れて帰るから」

「は? ダメに決まってるじゃん。コタローはこれからわたしとデートへ行くの。カメラを貸してあげるから、あんたは自撮りでポロリして配信中止のお詫び動画をここで作っといて」

「作るかそんなのーっ!」


 ふたたび勃発する大喧嘩。

 いろんな意味であいだに挟まれた俺は、あわあわうひょうひょしながら2人の喧嘩を必死に止めるのだった。

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