第280話 最凶の勇者、小田原智
……一体なにが起こっているのか?
魔王軍が罪も無い人々を殺戮しているという告発動画を前に疑問を浮かべていた。
報告によれば魔物討伐の最中に、魔物がいきなり人間になったとか……。
とどめを刺す瞬間に人間の姿になるので止めることができなかったそうだ。
こんなことが何度も起こっている。
これは偶然じゃない。誰かの意図によって必然的に起こされていると俺は考えていた。
「魔物の討伐を行えば必ずと言っていいほど、人間化の現象が起きています。いえ、恐らく人間が魔物化しているというほうが正しいでしょう」
ジグドラスの報告を魔王の間で聞きながら俺は頷く。
一体どこの誰がこんな邪悪なことをしているのか?
現在調査中だが、はっきりしたことはまだなにもわかっていない。しかし怪しい人物はひとりだけ見つかっている。
「この動画投稿者はまだ見つからないのか?」
勇者とかいう名前の動画投稿者だ。
この人物は魔物が大量発生した現場に必ずおり、魔王軍が人々を殺戮している風に見せかける恣意的な動画を作って投稿している。
こいつが人間を魔物化している犯人ではないか?
そう疑って調査をさせているが、世界各地に出現しており所在を掴むのが難しく、未だ何者かはわかっていない。
「はい。全世界で捜索をしているのですが……。動画の投稿も世界各地で行われているので、所在を掴むのはかなり困難な状況です」
「うーん……」
こうも簡単に世界中を移動できるということは、転移魔法を使える高位の魔法使い、もしくは神が送って来た天使のひとりかもしれない。
「このようなことが続いた影響で、魔王軍は魔物討伐に二の足を踏んでしまっている状況です。魔物討伐へ向かうのが遅れた地域では、妙な者たちが代わりに魔物を討伐しているようなのですが……」
「これか……」
同じ投稿者の動画には、ピエロの仮面を被った2人の男たちが魔物化したと思われる人間たちを討伐しているものがある。
これは魔王軍が魔物を放置して人間を殺していると訴えている動画で、やはり魔王軍を貶める内容となっていた。
「このピエロたちが動画投稿者なのか?」
「投稿者本人か、もしくは仲間であることは間違いないかと」
「うん」
人間を魔物に変えているのがこいつらなのかはまだはっきりしない。とにかく捕まえて尋問する必要があった。
「もしかしてこれが神の言っていた災難なのか……?」
そうかどうかはまだわからない。
しかし災難であることは間違いなかった。
「こいつらが人間を魔物に変えているとしたら、かなりの手練れだ、見つけたら俺に報告しろ。俺が直接に出向いて捕らえる」
「かしこまりました」
特にピエロの片方は詠唱も無く強力な魔法……いや、もしかしたら神法かもしれない。とにかく強力な攻撃で魔物を殺戮していた。
「早く連中に関する情報がほしい。どんなに細かい情報でも収集して捜索にあたってくれ。全力を挙げて奴らを発見するんだ」
「はっ!」
そう返事をしてジグドラスは部屋を出て行こうとしたとき、
「うん? ちょっと待て。例の動画投稿者がライブ配信を始めたぞ」
内容は魔物討伐ではない。
なにやら重大な発表があるとのことだ。
俺はその動画を開いて見ることに……。
「やあ全世界の諸君。俺は勇者だ」
「あたしはその仲間よ」
どこかの公園だろうか?
そこのベンチにピエロの仮面を被った男が2人座っていた。
「多くの人間たちはもうわかっていることだろう。魔王は人類の抹殺を考えている。魔物だって魔王が人間を殺すために発生させているんだ。このまま放って置けば世界中が魔物だらけになって人間は絶滅させられる」
なにをいい加減なことを……。
こいつは何者だ?
なんの目的があってこんなことをしているのか……?
いや目的なんてどうだっていい。
目的がなんであれ、こいつの邪悪な所業は許せなかった。
「それを避けるには魔王を討伐するべきだ。魔王の力が強大だってことはわかっている。けど誰かがやらなければ人類は滅亡だ」
同時接続数は100万を超えた。
そしてコメント欄には魔王討伐を望む声で溢れていた。
「俺ってこんなに嫌われていたのか……」
「い、いえ、これは連中が魔王様を貶める行為をしたからであって、本来ならばこのようなことはないはずかと……」
「はず?」
「就任の会見で巨乳美女万歳と言った影響とかで、一部からの支持は異様に低いと聞いております……」
「あ、そう……。なんでだろう?」
巨乳美女が素敵なのは全人類共通の考えなのに、なにが悪いのかさっぱりだった。
「たくさんのコメントをありがとう。魔王は強大だ。そんなヤバい奴を誰かに討伐してくれなんて言うほど俺は無責任じゃない。だから……」
「!?」
ピエロ男2人がおもむろに仮面をはずす。
「俺が魔王を倒す。勇者様の伝説が今から始まるぜ」
仮面の下から現れた素顔を見て俺は言葉を失う。
小田原智。
人間を魔物に変えて殺戮し、魔王軍を貶めていた者の正体は俺がこの手で間違い無く殺した男だった。
「な、なんで小田原が……?」
こいつは死んだはず。それがなぜ生きているのか?
わけがわからなかった。
「隣にいるもうひとりもどっかで見たことあるような……。いや、それよりも小田原がこの事態を引き起こしている奴だったなんて……」
奴が生きている理由は不明だ。
加えて、人間を魔物に変えるなんて悍ましい芸当をどこで身につけたのか? それも不明で不気味だった。
「魔王を倒せるわけがないってコメントがあるな。そう思うのも当然だ。けど俺は本当に魔王を倒せるぜ。なんせ俺には神様がついてるからな」
「か、神だって?」
それが本当だとすれば小田原が生きている理由に納得がいく。
神が復活させたのだろう。俺に災難を与える者として……。
「俺を疑う連中に神様から与えられた力の一端を見せてやるよ」
と、小田原は右手をかざし……。
「これは……」
恐らく転移ゲートだろう。
一体どこへ行くと言うのか……?
もうひとりの男に撮影をさせながら小田原は転移ゲートへ入って行く。
「さあ、ここがどこかわかるかな?」
「こ、ここはっ!?」
見覚えがある場所……。
そこは間違い無く魔王城の入り口であった。
――――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
巨乳美女が大好き。
ただそれだけで支持が下がってしまうなんて理不尽……。
☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
次回は小田原との望まぬ再会……。
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