第57話 瀕死の少年を回復させる
俺が近づくと、
「……うっ」
倒れているその人が小さく呻く。
その呻いた人は起き上がり、虚ろな目でこちらを見た。
「あ、あなたたちは……」
一見、女性にも見える中性的な容姿のその彼は、前に垂れ下がった赤く長い髪をかき上げて不審気な表情でこちらへ目を向けていた。
歳はだいぶ若い。中学生か高校生くらいだと思う。
「……っ」
ひどい怪我を負っている。
よく生きているというほどだった。
「これは病院に連れて行かねばならぬな。早く大会スタッフに知らせなければ」
スマホを持った無未ちゃんを、俺は手で制する。
「この傷じゃ間に合わない」
「けれど放って置くわけには……」
「わかってる」
俺は赤髪の彼へ右手を向ける。
すると彼の身体は淡い緑色へと包まれ……。
「こ、これは……っ」
彼の傷は少しずつ塞がっていく。
10分ほどそうしていただろうか。やがて彼の傷は完全に塞がった。
「ぼ、僕の傷が……」
赤髪の彼は驚いたように目を見開いて自分の身体を見ていた。
完治に10分もかかってしまうとは。
やはりだいぶ力を失っているなと、俺は弱体化を実感した。
「は、白面の君っ、これはどういうことだっ?」
驚いたような表情で無未ちゃんは声を上げる
「どういうことって?」
「こんな短時間で傷を完治してしまうスキルなど前代未聞だぞっ」
「そ、そうなの? でもこの大会の優勝賞品も傷が治せるみたいだし」
「あれは肉体の自己治癒能力を高めてかすり傷程度を数分かけて完治させるものであって、さっきのような大怪我なら治す前に死んでしまうはずだ」
「そうだったんだ……」
みんながすごいすごい言ってたから、てっきり瀕死の重傷を数分くらいで完治できるようなものかと思っていたのだが……。
マンダ:マジかよすげー!
ランラン:絶対その人、死んだと思ったわ
めたどん:ええ……強いし傷まで治せるって、もう無敵じゃん
イグナス:傷を治せるスキルで現状確認されてるのはこの大会の優勝賞品の『永続回復』がついてる首輪くらいしかないよ。そのスキルだってさっきほどの傷を治すのはたぶん何日もかかるし、女王様が言ったように治す前にたぶん死ぬ
しんし:まあさっきみたいな回復スキルを誰でも当たり前のように使えたら医者とか半分くらい失業しそうだし。それはともかく白面は死ね
コメ欄は驚きの声で溢れている。
「そ、それも魔……」
俺は無未ちゃんへ向かって人差し指で×印を作る。
配信されているのだ。
魔法なんて余計なことを言ったら話がややこしくなる。
「あ……うむ。さ、さすがは白面の君だ。未知のスキルまで使えるのだな」
察してくれた無未ちゃんは未知のスキルということで話をまとめてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いや、それよりも君はグレートチームの参加者なの?」
「いえ……」
「あ、じゃあ一般の探索者なんだね」
「はい」
大会中は一般探索者のダンジョンへの出入りは極力、遠慮してもらっているそうだが、立ち入り禁止ではないので赤髪の彼がここにいても変ではない。
「傷はボスにやられたの?」
「はい。僕、まだ新人の探索者なんですけど、この階層のボスくらいなら1人でもと思って戦ってみたんですがこのざまで……。あ、ボスのほうはここを通りかかったチームが倒して行きました」
「なるほど」
恐らくグレートチームの参加者が行きがけに倒して行ったのだろう。
「白面の君、我々は先を急ごう」
「あ、うん。じゃあ俺たちは行くから、君も気を付けてね」
「はい。本当にありがとうございました」
黒い手に乗り、俺たちはそこから移動する。
振り返ると、赤髪の彼はもうそこにいなかった。
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