第257話 グラディエの正体は……
「な、無未ちゃん……」
素顔になった無未ちゃんは暗い表情で俺を見つめる。その目はなにやら悲し気であるような気がした。
しかしおかしい。無未ちゃんなら記憶を戻した段階で攻撃の手は止めるはず。なぜ攻撃を続けたのかがわからなかった。
もしかして偽物か?
胸も小さいし、その可能性はある。
偽物ならば魂を見ればわかることだ。
俺は魔法を使って無未ちゃんの中にある魂を見通す。
……偽物じゃない。
目の前にいるのは本物の無未ちゃんだ。
「無未ちゃん、どうして……うわっ!?」
薙がれる黒い剣を後方へ飛び退って避ける。
「無未ちゃんっ!」
「……」
なんらかの魔法……いや、神法を受けて操られているのか? だとしたら無未ちゃんを操っているのは……。
「そこ女っ! 無未ちゃんを元に戻せっ!」
あの小柄な女。命令を出しているあいつが神法で操っているに違いない。
「元に戻せ? その女を? 戻すもなにも、その女は元の通りだが?」
「なんだと?」
どういう意味だ?
「ロゼッタっ! もういいっ! ここは引くっ!」
「あっ」
小柄な女は素早く移動して千年魔導士の横をすり抜けると、転移ゲートを展開して氷漬けのナルマストス掴む。
「させません」
千年魔導士は金の杖から魔力の塊を放って氷漬けのナルマストスを粉々に破壊する。
「ちっ! ロゼッタっ!」
「あ、無未ちゃんっ!」
無未ちゃんはその転移ゲートへ飛び込み、小柄な女とともに消えていった。
「無未ちゃん……」
無未ちゃんは神法で操られている。そのはず。なのに……。
「なんであんなに悲しそうな目で俺を見ていたんだろう?」
操られて正気は無いはずだ。
しかし目には感情が込められていたような気がして、俺は困惑していた。
「逃げられてしまいましたね」
「ああ。それで、神法とやらを使うあの女は何者なんだ?」
神の力を借りるなんて人間にできることじゃない。あの女の正体についてはある程度の予想はつくが……。
「あれは天使でしょう」
「天使……。やっぱりか」
天使とは天の使い。神の手足となって動く者たちのことだ。
「なんで天使がイレイアの下についているんだ?」
「それはわかりません。しかしただ従っているとは思えません。なにか思惑があるのでしょう」
「神の意志で、か」
「天使は神の意志でしか動きません。もしかすれば、神は天使を使ってイレイアに世界吸収をさせているのかもしれません」
「なんでそんなことを? 世界が吸収されてひとつに統一してしまったら、世界はめちゃくちゃになるんだ。神がなんでそんなことをイレイアに……?」
「わたしも神に関してはあまり詳しくはありません。なにやら人間には理解できないような、大きな思惑があるのだと思いますが……」
「大きな思惑……」
それがなんだとしても、世界がめちゃくちゃに……巨乳美女の迫害を放って置くことはできない。
相手が神であっても、イレイアの暴挙を止めることに迷いは無かった。
「ナルマストスを捕らえていればなにか有用な情報を聞き出せたかもしれませんが……申し訳ありません。咄嗟のことで破壊を……」
「いや、そもそもは奴を討伐することが目的だ。逃がしてしまうよりはいい」
信者たちの殺害はナルマストスに任されていた。
奴を仕留めれば、ひとまずは信者たちが殺されることは収まるだろう。
「これからどうされますか? 魔王様の力を装置で強化すればイレイアの討伐は可能と考えていましたが、神が黒幕となるとそう簡単にはいかないでしょう」
「どうもこうも引くわけにはいかない。神が相手でもやるしかないだろう」
無未ちゃんのこともある。簡単でなくともやるしかない。
「けどあの神法ってのは厄介だな」
ナルマストスのように攻撃だけで使ってくるなら、こちらが当たらなければいい。もしくは千年魔導士のように敵意を無くせばダメージは無い。しかし防御で使われてはどうしようもなかった。
「神法に対抗するにはこちらも神法を得るしかないでしょう」
「神法を? けど神法は神に背く意思がある者に罰を与える力だろう? 天使を倒すには使えないんじゃないか?」
「お互いに神法を使えればそのルールは相殺されます。戦えば単純に強い力を持つほうが勝つでしょう」
「なるほど……。なら強い神法を得れば天使を倒して、操られている無未ちゃんを助け出すことができるな」
それならば一刻も早く神法を得なければ。
無未ちゃんを助け出すためにも……。
「それなんですが、恐らくあの方は操られてはいないと思います」
「えっ? ど、どういうことだ?」
無未ちゃんは天使とともに行動をして俺に攻撃をしてきた。
それなのに操られているわけではないというのはどういうことかと疑問に思う。
「ご存じの通り、神法は神や神の信奉者に背く意思がある者に罰という形で効果を発揮できる能力です。無未様に神やその信奉者へ背く意志などあるとは思えません」
「た、確かに。けど俺たちみたいに天使と戦うような状況になれば……」
「そもそも神法は背信者に罰を与えて滅するために存在する力です。人心を操るなんて力はありませんよ」
「そうなのか? じゃあ無未ちゃんはどうして天使に従っているんだ?」
「恐らく唆されているのではと」
「唆されているって……」
信じられない。
なにを言われたとしても、あの無未ちゃんが俺に攻撃をするなんて。
「無未様がどのような言葉で唆されたのかはわかりません。しかし操られているわけではないのならば、魔王様の言葉は届くはずです」
「うん……」
無未ちゃんになにがあったのか?
次に会ったときにそれを知らなければならない。
「まず魔王様は神法を得ることをお考え下さい」
「うん。けど天使が動いてるってことは神は向こう側だろう。こちらが力を借りるのは無理じゃないか?」
「借りるのは無理です。しかし神法を会得する方法はあります」
神の力を借りずに神法を会得する方法。それはどんな方法なのか? わからないが、簡単ではなさそうだった。
――――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
本物の無未ちゃんならばおっぱいはどこに……? 口には出さない魔王様ですが、そのことをものすごく気にしてそうですね。
たくさんの☆、フォロー、応援、感想をありがとうございます。引き続き☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。
次回は神法を会得するため、神獣との契約へ……。
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