第138話 血文字の刻印がある5人の子供たち

 ……たくさんあった食べ物はあっという間に無くなり、お腹いっぱいになった子供たちは眠そうにその場へ座っていた。


「こんなところで寝ちゃダメ。ベッドへ行きなさい」

「あい……」

「はーい」


 ミランダに言われて子供たちが立ち上がる。


「ん?」


 立ち上がったアンナの右足首になにか赤いものが見え……。


「あ……ちょ、ちょっと待って」


 俺は屈んでその赤いものを確かめる。


 赤い血文字。ケビン君にあったものと同じ刻印だ。


「ミランダ、これと同じ赤い文字のある子は他にもいる?」

「えっ? あ、はい」


 ミランダが視線を移すと、察した子供たちの数人がやってきて俺へ身体の一部を露出させて見せてくる。


 別の子は左腕。また別の子は左足、もうひとりは首にあった。


「わ、わたしも……」


 ミランダが自分の服を捲ると、へその下あたりに赤い文字が見えた。


「鉄壁、疾風、賢明、鋭利、形代……日本語にするとこんな感じだと思うけど……白面さん、これってどういう意味かわかる?」

「うん……たぶん」


 これがケビン君に書かれていたものと同じなら恐らく……。


「これはジェイニーが君たちに書いたもの?」

「えっ? いえ、みんな気付いたらあったって感じで」

「そうか……」


 ケビン君と同じく、やはり寝ているあいだにでも刻印したのだろう。


 ジェイニーと戦えば、この子たちは魔人となって俺へ襲い掛かるだろう。ならば転移ゲートで別の場所へ移して、結界で居場所を隠すか……。

 いや、そうなれば状況を怪しんでジェイニーは魔人の姿にならないかもしれない。奴は世間的に聖人で、俺たちは不法侵入者だ。警察でも呼ばれたら分が悪い。

 奴を魔人化させ、この施設が危険な状態にある事実、人間の魔人化という事実を動画へ収めて世間へ知らせる必要がある。

 そのためにはかわいそうだが、この子たちを安全な場所へ隠すことはできない。


 この子たちが魔人化させられる前にジェイニーの魔人化を動画へ収め、速攻で始末ができればいいのだが……。


 奴には魔人の正体を聞き出す必要もある。それと小田原の居場所だ。前に聞いたときは知らないと言ったが、本当は知っている可能性もある。

 速攻での始末は難しいかもしれない。しかし子供たちを傷つけることは決してしないと、それだけは心に誓った。


「もう寝ていーい?」

「寝る前に白面さんとアカツキさんに言うことがあるでしょう?」

「あ、うん」


 子供たちが俺のほうを向く。


「白面さんとアカツキさん、ありがとうございましたーっ!」


 子供たちが声を揃えて俺たちに礼を言う。


「ああいや……」

「みんなが喜んでくれて嬉しいよ☆ちゃんと歯を磨いて寝るんだよー☆」

「はーい。白面さん、アカツキさんおやすみなさーい」

「ああ、おやすみ」

「みんなおやすみー☆」


 手を振って部屋を出て行く子供たちへ、俺たちも手を振り返した。


「あ、っと……あの、ありがとうございました。みんなすごく嬉しそうで、わたしもひさしぶりにお腹いっぱいになれて……。なんかその、初めは疑うようなことを言ってすいませんでした」

「あ、いや、それはしかたないよ。いきなり顔を隠した2人が現れたら警戒しちゃうよ普通は」

「そう言っていただけると……。あ、それで、お2人は本物の白面さんとアカツキさん……なんですよね?」

「証明するものは無いけど、本物には違いないよ」

「けど、どうしてここへ?」

「うん。ケビン君からジェイニーのことを聞いて」

「ケビン? ケビンに会ったんですか?」

「うん。街中でちょっとね」

「あの子は今どこに……?」

「うん。一度ジェイニーに連れて行かれて、それから道で倒れていたのを見つけて病院に連れ行ったんだ。栄養失調とかでだいぶ衰弱していたらしいけど、命に別状は無いそうだからそこは安心して」


 彼が魔人化していたらしいということは伏せて置こう。

 きっと余計な不安を与えてしまうから……。


「そうですか。きっと脱走したケビンにシスタージェイニーがなにかしたのでしょう。もしかして毒かなにかを飲ませて殺そうとしたのかも……。あの人、奇跡で病気を治すとかやってるけど、きっと自分にしか解毒方法がわからない毒とか使って奇跡を演出してるんだろうし」


 奇跡で流行り病を治すとは聞いたが、はたしてミランダの言う通りの方法で演出しているのだろうか? いずれにせよなにかカラクリがあるのだと思う。


「白面さんとアカツキさんが病院へ連れて行ってくれなければ死んでいたかもしれません。ありがとうございました」

「いや、当然のことをしただけだよ」

「は、はい。あ、それでその、ケビンはシスタージェイニーのことをなんと言っていましたか?」

「うん。ケビン君はシスタージェイニーをひどい人だって。それと……ジェイニーの正体は魔人だから、それを知らせて誰かに助けてもらわなきゃって」

「ああ……」


 俺の言葉を聞いたミランダは、暗く視線を落とす。


「君もジェイニーが魔人になるところを見たの?」

「いえ、わたしは見てないんです。けどケビンは見たって。もし本当にそうならわたしたちはどうなってしまうのでしょう? いつか殺されるんじゃ……」

「大丈夫」


 不安そうなミランダへ俺ははっきりと言う。


「ジェイニーが魔人なら俺が倒す。仮に違っていても、奴の悪行を調べて世間に公表するよ。ね、アカツキちゃん?」

「もちろん。動画的にもおもしろそうだしね」

「け、けど、本当にシスタージェイニーが魔人だったら……。危険ですよ。魔人はブラック級のハンターに匹敵するとも言われていると聞きます。いくら白面さんが強いと言っても、ひとりでは殺されてしまいますよ」

「大丈夫だって。この人、すんごい強いから」


 すんごい強いなどと言われると、反射的にそんなことないですと謙遜を述べてしまいそうになるが、ミランダを安心させるためその言葉は飲み込んだ。


「そうですか……。それではこれからジェイニーのところへ?」

「うん。よければ奴がどこいるか教えてくれるかな?」

「もちろん。ご案内します」


 案内を快諾してくれたミランダについて行き、俺たちは部屋から出た。

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