第264話 強きを知り弱きを知った竜

 ……戦闘開始からしばらくして、天使の顔つきが変わる。


「しくじりましたね」

「なに?」


 なにをしくじったというのだ?


 俺は天使の動きを注意深く見張る。


「ここは引きます」

「えっ? ちょ……な、無未ちゃんっ! 待って……」」


 言い終わる前に天使は無未ちゃんを連れて転移ゲートに飲まれて行った。


「くそ……」


 結局、無未ちゃんからはなにも聞くことはできず、天使から解放してあげることができなかった。けど次こそは……。

 しかしなんで急に引いたんだ? なにか思惑が……いや、今はそれよりも。


「ア、アカネちゃんたちは……」


 どこへ行ったかわからない。

 これでは探しに行きようがなかった。


「……恐らくデルタデイドのもとへ送られたのではないでしょうか?」

「デルタデイドのもとへ?」


 奥から出て来たビグラビグイドへ問い返す。


「デルタデイドのいる洞窟でなにか騒ぎがあったようです。騒ぎの原因が魔王様のお仲間たちかどうかはわかりませんが」

「行ってみるか」


 そう思ったとき、


「あっ」


 目の前に転移ゲートが現れる。

 そこからアカネちゃんたちが出て来た。


「アカネちゃんっ!」

「コタローっ!」


 こちらへ来たアカネちゃんを抱き締める。


「よかった。無事で」

「うん。コタローも平気だった?」

「ああ。俺は大丈夫」


 無未ちゃんを救うことはまたできなかったが……。


「わしも平気じゃ」

「ああ、雪華も無事でよかった」

「私も」

「ああ。お前も無事でよかった」

「僕も」

「ああ。君も……って、えっ?」


 誰だか知らない少年が俺を見上げていた。


「だ、誰?」

「コタツ君」

「コタツ? えっ? どういうこと?」


 この綺麗な顔をした少年がコタツ?


 そう言われても俺には意味がわからなかった。


 ……それからアカネちゃんに事情を説明されたが、やっぱりわからない。

 なぜコタツが人間の姿になってしまったのか?


「ああ、まさかヴァルヴェイン様が……」

「えっ?」


 ビグラビグイドがぼそりと言いつつ、コタツを見下ろす。


「どういうことだ?」

「私が知っている神龍様も人の姿になられることがありました」

「し、神龍? ということはコタツが……」

「はいヴァルヴェイン様はどうやら神龍として覚醒されたようです」

「そうなのか……」


 まさかコタツが神龍になるとは……。


「古くからの言い伝えでは、強きを知り、弱きを知る竜が神へ至ると言われています。この場合の強きとは竜のこと。弱きとは人間のこと。ヴァルヴェイン様は竜として産まれ、人と過ごすことで強きと弱きを知り、神龍へと至ったのでしょう」

「けどどうして人の姿なんだ?」

「それに関しては私がお答えいたしましょう」


 と、千年魔導士が声を上げる。


「これは単純な話で、神が人の姿をしているからです。竜族のような人ならざる者が神に至るとは、つまり神と同じ人の姿を得るということなのです」

「な、なるほど」


 しかし人の姿になってしまうとは……。


「あっ」


 不意にコタツの身体が縮んでいき、やがていつもの小さな竜の姿となる。


「神龍状態は永続ではないようですね」

「うむ。私の知っている神龍様もそうでした。人の姿になることは滅多に無く、人の姿になれることを知っていたのは極一部の者のみだったと聞いております」

「そうなのか」

「きゅー」


 飛び上がったコタツが俺の頭へと乗る。


「コタツ君がいなかったらあぶなかったかも」

「うん」


 頭の上にいるコタツの背をポンと撫でる。


「ありがとうな。アカネちゃんたちを守ってくれて」

「きゅー」

「では魔王様、コタツ様と契約をなさってください」

「契約ってなにをすればいいんだ?」

「えーと……」

「もしかしてわからないのか?」

「いえ、倒して従わせるそうですが、魔王様とコタツ様の関係ですと、そういうことは必要無いでしょうし……」


 確かにそれもそうだ。従わせるもなにも、俺とコタツは強く信頼し合っている。倒す必要も従属させる必要も無い。ならば一体どうすれば契約できるのか……?


「きゅー」

「うわっ、なんだよ?」


 頭の上から首を伸ばしたコタツが俺の額をペロペロ舐める。なにやらくすぐったくて額がムズムズした。


「ん? お、なんだ?」


 そのとき俺の身体が白く輝く。

 なにか身体に別の力が入ってくるような、そんな感覚を受けた。


「どうやら契約は成ったようですね」

「そうなのか? けどなにもしてないぞ?」

「獣が相手を舐めるというのは従属の証です。魔王様を舐めることで契約が成るはずと、コタツ様はわかったのでしょう」

「そうか」


 まだ俺の額を舐めまわしているコタツの頭を指で撫でる。


 新たな力、神法を得た

 これで天使を恐れることはもう無い。奴は放って置き、次こそは無未ちゃんを助け出そう。


 その思いを俺は心に強く持った。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 神龍へと覚醒したコタツ君。そして神龍と契約したことにより神法を得た魔王様ですが、はたして無未ちゃんを救うことはできるのか……?


 たくさんの☆、フォロー、応援、感想をありがとうございます。引き続き☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。


 次回は将軍ジグドラスが小太郎のもとへやって来ます。

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