第265話 イレイアを救いたいジグドラス

 神龍となったコタツと契約したことで俺は神法を得た。これで天使に対して不利になることはなく、次こそ奴を倒して無未ちゃんを救うことができるはず……。


「それで、いつ魔王城へ行ってイレイアを倒すの?」

「えっ? あ、うーん……」


 魔法学校にて。

 午前の授業が終わった俺はアカネちゃんと一緒に食堂で昼食を取っていた。


「神法を使えるようになったし、魔王の力も十分に集まってるんでしょ? だったらもうイレイアを倒しに行ってもいいんじゃない?」

「そうなんだけど、魔王城に入るのが難しくてね……」

「それってどういうこと?」


 アカネちゃんは食後のコーヒーを飲みつつ尋ねてくる。


「うん。魔王城はどこからでも行けるけど、入るのは簡単じゃないんだ」

「どこからでも行ける?」

「魔王城は異次元空間の中にあるんだよ。そこに入る通行証として、入城に必要な魔法があるんだ」

「けど白面さんは魔王だったんだし、その魔法は使えるんじゃないの?」

「その魔法を使えるようになるには城主への忠誠心が必要でね。今の城主はイレイアだから、入城に必要な魔法を習得するにはイレイアに忠誠を誓わなければならない」

「それは……確かに難しそう。だけど白面さんなら強引に入ることもできるんじゃないの?」

「できなくはないけど、魔王城がある異次元空間は強力な障壁がで守られているから、それを破壊するほどの力を使うと魔王城ごと破壊する可能性が……」

「ああまあ……イレイアだけならともかく、城にいる人たちみんなを犠牲にすることはできないもんね」

「それもあるんだけど……」


 と、俺はアカネちゃんから目を逸らして下を向く。


「アカネちゃんには話していなかったけど……天使と一緒にいたあの黒い仮面の女、無未ちゃんなんだ」

「えっ?」


 それを聞いたアカネちゃんは目を見開く。


「なんらかの神法で天使に操られているんだと思う。操っている天使を倒せば元に戻るだろうし、無未ちゃんを救うためにも魔王城を破壊するわけにはいかないんだ」


 もたもたせずに早く無未ちゃんを探し出せていればこんなことには……。


 後悔してもしかたないが、自分の愚かさを悔やんでしまう。


「そうだったんだ……。なにか他に魔王城へ入れる方法はあるかな?」

「通行証になる魔法を使える誰かに協力させれば入れるけど……」


 しかしその魔法が使える人間を見つけたとして、そいつはイレイアへ忠誠を誓っている奴だ。協力させるのは困難だろう。


「じゃあまずは通行証の魔法を使える人を見つけないとね。けどそのあいだにも天使がまた襲撃してきたり、雪華ちゃんの信者を殺されたりするかもしれないから、そっちのほうも気をつけないと」

「うん」


 魔法で作り出したガーディアンを世界中に放って信者たちを守らせているから、そう簡単に殺されたりはしないだろうが、油断もできなかった。


「ああ、白面先生こちらにいましたか」

「えっ? ああ、学園長先生」


 なにか用でもあるのだろうか?


 俺を見つけてホッとしたような表情の学園長がこちらへ歩いて来る。


「白面先生にお客様がいらしておりますよ」

「客ですか?」


 誰だろうか? 巨乳美女を守る会や幼女を愛でる教の人間なら直接、連絡をしてくるだろうし、学校へ客として来るとは思えない。


 他に心当たりがあるとしたら父さんたちくらいだが、ここで勤務していることは伝えていないので可能性は低い。


 じゃあ誰だろうかと思いながら、俺とアカネちゃんは学園長に連れられて学校の応接室へと向かった。


「お待たせ致しました」


 学園長に続いて応接室へ入る。と、


「あっ」


 見覚えのある顔がソファーに座っているのが見えた。


「では私はこれで」


 学園長は出て行き、部屋には俺とアカネちゃん、そして客として来た男の3人だけとなった。


「おひさしぶりです。魔王様」

「ジグドラス……」


 立ち上がり、そして跪いた男、ジグドラスを見下ろす。


 かつて俺に仕えていた将軍ジグドラス。

 自分の世界へ帰ったときは、こうしてまた会う日が来るとは思っていなかった。


「白面先生の知り合い?」

「うん。魔王だったころ俺に仕えていた将軍だよ」


 戦いとなれば勇猛果敢。

 しかし戦いを避けるための方法を考えるのもうまい男であった。


「けど、どうしてお前がここに?」

「はい。この魔法学校に現れた白面という者が魔王様だと聞き、願いを聞いていただきたくこうして伺った次第でございます」

「願い? ……とりあえず座って話を聞こう」


 ジグドラスをソファーへと座らせ、俺とアカネちゃんはその向かいのソファーへと腰を下ろす。


「それで、俺に願いとはなんだ?」

「はい。率直に申し上げますと、イレイアを救っていただきたいのです」

「イレイアを救う?」


 頭を下げるジグドラスを前にして俺は考える。


 イレイアは巨乳美女を迫害し、すべての世界を吸収して混乱をもたらそうとしている。そんな奴を救ってくれというジグドラスの気持ちが理解できなかった。


「ジグドラス、お前は今どういう立場にいるんだ?」

「イレイアに仕えております」

「それじゃあイレイアと戦うのをやめろと俺に言っているわけか?」


 今の俺ならイレイアを倒すことはできるだろう。それをやめてほしいとジグドラスは言っているのだと俺は思ったが。


「いいえ、そうではありません」


 しかしジグドラスは首を横に振って違うと言う。


「イレイアをグラディエから……天使から救ってほしいのです」


 天使から救う。

 俺はそれを聞いてだいたいの事情は理解できたような気がした。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 ジグドラスはグラディエが黒幕だと完全に見抜いていたようですね。しかし巨乳美女迫害などという愚行をしていたイレイアを、魔王様は許せるのか……?


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回、イレイアが巨乳美女迫害を始めた理由に心当たりのあるジグドラスだが……。

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