第55話 配信を開始して出発

 大会では公平を期すためリターン板の使用が不可なので、ダンジョンへ入った参加者は上層の入り口から走って一斉にボス部屋を目指す。


 参加者は皆、上級クラスだ。

 上層などあっさり突破して中層深層へと向かうだろう。


 ダンジョンには数多くのカメラ付きドローンが飛んでおり、テレビやネットの配信、会場の巨大モニターに大会参加者の動向が映し出される。


 俺はそんなドローンが映す映像を、入り口に立ってスマホで眺めていた。


「わたしたちも早く行かないとっ」


 焦り声で急かす無未ちゃん。

 俺はどっちでもいいけど、リーダーのアカネちゃんがまだ進もうとしなかった。


「待ってよ。これから配信開始のあいさつをするんだから」

「そんなのどうでもいいじゃんっ。早く行かないと優勝できないしっ」


 しかしアカネちゃんは聞かない。

 無未ちゃんの焦りなど知らぬ顔で配信の準備をしていた。


「テロリストの戸塚我琉真って……」


 俺は隣の無未ちゃんへ目をやる。


「あ、うん。わたしが捕まえたんだよね」


 国会を襲撃して議員の大勢を殺害した戸塚我琉真だが、駆け付けた漆黒の女王こと無未ちゃんに異形種を全滅させられ本人もあっさり捕らえられた。


「あのときはダンジョンの外だったから簡単に倒せたけど、魔物を操るあの男のスキルは深層だと脅威だったかも」

「ああ、確かにそうだったかもね」


 いくらでも魔物がいるダンジョン内でこそ戸塚我琉真のスキルは真価を発揮しただろう。深層で使えば脅威であったことは考えるまでもない。


「っと、準備完了。配信始めるよ」

「あ、うん」


 開始の声を聞いて俺は姿勢を正す。


「3、2、1……はーいこんにちわー☆みんな来てくれてありがとー☆」


 配信が始まり、俺はアカツキちゃんネルのコメント欄を仮面の左目部分で眺めた。



 ぬまっきー;はじまりましたー


 ナイトマン:待ってた


 おやつ:待ってました


 そらー:白面さんと女王様のコンビって普通に考えて最強だわ


 おやつ:前の事件で仲良くなったんだなー


 マンダ:日本最強コンビでは?


 イグナス:いろいろ期待してますよ



「うん☆じゃあ出発する前にメンバー紹介しとくね☆まずはおなじみ白面さん」

「こ、こんにちわー」


 カメラを向けられあいさつ。

 緊張するけど、さっき会場でコメントを求められたときよりはだいぶましだ。


「そして今回チームに参加してくれたブラック級11位、漆黒の女王ことディアー・ナーシングさんでーす☆」

「ふん。VTuberの動画配信などくだらん。我は我の目的を遂げるために行動するのみだ。貴様らはそれを勝手に眺めていればよい」



 マンダ:さすが女王様


 ランラン:かっこいい


 タイガー:美人過ぎて痺れるわ


 ぬまっきー:美人、巨乳、強い、弱点無し


 ナイトマン:画面がエッチ



 なんだかんだ配信を盛り上げる無未ちゃんは、良い子だと思う。


「はーい☆白面さん、女王様ありがとー☆じゃあそろそろ出発するねー☆」


 と、ようやく出発。

 だいぶ出遅れてしまった。先に行った探索者チームはもう中層くらいには至っただろうか?


「ようやく出発か。遅れを取り戻すために急ぐぞ」

「うん? ん? うおっ!?」


 地面から出てきた黒い手が俺たちを乗せる。


「こ、これはなく……女王のスキルか」

「うむ。『闇を統べる女王の観衆』。深層で魔物を倒しているうちに自然と身についた最強クラスのスキルだ」

「自然と……」


 上級クラスには装備が無くてもスキルを使える探索者がいるとは聞いたが、無未ちゃんのこのスキルもそれだったようだ。


「では行くぞ」

「あ、うん。おおっ!?」


 俺たちを乗せた黒い手が発進する。

 黒い手は高速でダンジョン内を進んだ。



 ランラン:うおすご


 マンダ:女王様のスキルキター!


 イグナス:『闇を統べる女王の観衆』か。攻撃だけでなく移動にも使える超上級スキル



 これはすごい。

 移動しながら魔物も倒し、ぐんぐんと進んで行く。


「うわっ☆すごい速いっ☆おっこっちゃうっ☆」

「ふほっ!?」


 高速の移動に立っていられず屈み込んだアカネが俺へと抱きつく。


 着ぐるみ越しにでも感じるきょっぱいの厚みはおじさんを元気にさせる。

 元気があればなんでもできる。若くてかわいい女の子の大きなおっぱいを身体に感じるだけで、おじさんは元気になってなんでもできてしまうのだ。


「あっ! むーっ! ふ……ふ、振り落とされては迷惑だっ! 白面の君よ、我にしっかりと抱きつけっ!」

「えっ? んほっ!」


 無未ちゃんは俺の頭を掴み、自身の豊満な胸の谷間へと抱く。


 頭に感じるふわっふわな感触。きょっぱいという谷へ頭から落下した俺は、柔らかみに包まれて極楽浄土へと召されていった。


 身体に感じるアカネちゃんの柔らかきょっぱい。

 頭に感じる無未ちゃんの柔らかきょっぱい。


 なるほど。ここが天国か。


「おじさんもうこのまま死んでもいいや」


 おっぱいに包まれて死ぬが男の本懐。我が死に様をとくと見よ。



 ペン:女王様が白面の頭をお胸に抱いておられるーっ!


 セバス:くそが


 しんし:白面〇ね


 adaman:fuck



 女王様ファンも視聴しているようで、コメント欄は俺への批判で溢れていた。



 おやつ:女王様ファンが発狂してて草


 ぬまっきー:女王様は世界中にたくさんファンがいるからなー


 ナイトマン:世界中の女王様ファンを敵に回してしまったな



 なんか大変なことになってしまったかも。

 けれどこの至福から離れることはできなかった。


「は、白面さんは強いからつかまったりしなくていいんじゃないかなー?」


 つかまってるというか、捕まえられてるんだが。


「これは我のスキルだ。我の判断に口を出すな小娘」

「ははー☆そうか女王様は白面さんのことが好きなんだねー☆だからそんなに強く胸に抱いてるんだー☆」


 セバス:なにー! 女王様が白面を好きだと許せん!


 しんし:許さん許さん許さん許さん許さん


 ペン:ああああああああ


 adaman:fuckfuckfuck



 コメ欄は大荒れだ。

 これはすぐに離れるべきだろう。女王様のファンに殺されかねない。


 惜しみつつ俺が離れようとするも、グイと抱き戻されてふたたび谷間へと沈む。


「そうだが」

「えっ?」


 無未の放った一言にコメントの流れが止まった。


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