第54話 戸塚我琉真の犯行予告
「アカツキさんはダンジョン配信を行うVTuberです。先ごろに起こったダンジョン内での大事件を2つも解決し、その内容を配信したことで現在では登録者300万人を超える大人気VTuberとなっております]
アナウンサーから紹介を受けたアカネがスタッフからマイクを受け取る。
「こんにちわー☆紹介受けたアカツキ……の中の人でーす☆」
ドッと笑いが起こる。
「配信ではちゃんとアカツキが登場するから安心してね☆今回は大会に招待してくれて運営さんには感謝☆招待枠で参加だけど、参加する以上は優勝を目指してがんばっちゃうから応援してねー☆」
そう言ってアカネが観客席に手を振ると、
「うおおおおっ! アカツキちゃーんっ! がんばれーっ!」
「応援してるぞーっ!」
「負けてもいいから怪我はしないでーっ!」
ものすごい歓声が広場に轟く。
アカツキのファンも大勢が来ているようだ。
「さすがは大人気VTuberのアカツキさんですね。ものすごい歓声に私も腰を抜かしております。アカツキさんのチームには配信でおなじみの白面さん、それとなんとブラック級11位、漆黒の女王ことディアー・ナーシングさんがチームに参加しております」
と、今度は無未にマイクが渡される。
「言うことはひとつ。我の殲滅劇をその目に焼き付けよ。それだけだ」
無未がそう言い終えた瞬間、ふたたび広場が歓声に湧く。
「うおおおおっ! 女王様ーっ!!!」
「ディアー様ーっ!」
「俺も殲滅してくれーっ!」
アカツキに劣らずものすごい人気だ。
ブラック級の女王様と言えば世界中にファンがいるとかネットで見たし、この歓声も当然と言えば当然であった。
「2人ともすごい人気だなー。ん?」
俺の側へ来たスタッフがマイクを差し出してくる。
まさか俺にしゃべれと言うのか? この盛り上がった空気の中で?
悪夢再来。
なにか言わざる負えない空気の中、俺はしぶしぶマイクを受け取る。
この場にいるすべての人間の目が集まり、もはやなにを言っても湧きそうな雰囲気ではあったが、
「が、がんばります」
それだけ言ってマイクを返す俺に注目して静まる会場。
穴があったら入りたかった。
「シ、シンプルな意気込みですね。わかりやすくて大変いいと思います」
アナウンサーのフォローが痛い。
もう俺のことは忘れてほしいと思った。
「注目チームの紹介が終わったところで、いよいよ大会開始時刻寸前となりました。あちらの時計が12時を指した瞬間が開始時刻となります。参加者の皆さん準備のほうは……」
と、そこへスタッフが近付き、アナウンサーへメモ書きのような紙を渡す。
「あ、えー……こ、ここで奇妙な情報が入ってきました」
なんだろう?
会場内がざわつく。
「元ブラック級20位、戸塚我琉真からグレートチーム大会運営へ犯行予告が届いたとのことで……」
アナウンサーの言ったその言葉に会場内は一層にざわつく。
戸塚我琉真。
その名はきっと誰もが知っている。
戸塚我琉真は5年前に国会中の国会議事堂を襲撃したテロリストだ。
多くの議員を殺害したその行為は一部で賞賛されるも、大半の国民を恐怖と怒りに塗れさせた最悪のテロ事件として日本だけでなく世界を震撼させた。
襲撃は戸塚我琉真1人によって行われたのではない。
奴はなんらかのスキルを使って大量の異形種を操り、国会議事堂を襲撃した。操れるのは異形種だけではない。あらゆる魔物を従えるスキルを持つゆえ、戸塚我琉真は魔物の王、魔王の異名で呼ばれていた。
魔物を操るがゆえに魔王。
魔王という異名には妙な親近感を覚えつつも、決して仲良くはなれないと思った。
しかし仲良くなれるなれないを考える必要は無い。
戸塚我琉真の死刑は先日に執行されて、もうこの世にはいないのだから。
「深層に生息する特定異形種、地獄竜ゼルアブドを従えて大会参加者を殺し尽くす映像を全世界に流す。そして地獄竜ゼルアブドの圧倒的な強さを世に知らしめたのち、他の異形種らも使って堕落しきった邪悪なる日本政府を叩き潰し、強く平和で自由な国家を我が手によって実現する……と、戸塚我琉真の名でこのような犯行予告が大会運営に送られてきました」
特定異形種とは他の異形種にくらべて特に強力で、ブラック級ですら討伐が困難な伝説級の怪物のことを言う。
地獄竜ゼルアブドと言えば、何度も目撃されるが討伐には至っていないという話を聞いたことがある。
外見は巨大でどんな攻撃も通用せず、傷すらつけらないという。
しかし不思議なことにどんな攻撃をしてくるかという情報は一切無い。それというのも、人間の攻撃に対して反撃することなくどこかへ行ってしまうらしいとのこと。それゆえ、目撃情報だけはやたら多い奇妙な魔物であった。
戸塚我琉真を名乗る者はそいつを操ろうとしてるわけだが。
はたして送られてきた犯行予告は単なるいたずらか。恐らくはそうだ。魔物を従えるスキルは戸塚我琉真が深層に潜り、自然と身体に身についたものと聞く。装備に依るスキルではないので、戸塚我琉真の名を騙る何者かが魔物を操ろうとしてもそれは不可能なはずだ。
「恐らくこれはいたずらでしょう。みなさまを楽しませるジョークとして読ませていただきました」
アナウンサーの言葉に会場内は笑いに包まれる。
「はい。しかし悪意のあるなにものかがこの大会に対してなんらかの危険を及ぼす可能性はございますので、参加者の皆さんは十分にご注意ください」
その言葉をアナウンサーが発した直後、時計の針は12時を指す。
「12時となりました。それではグレートチーム開始です」
その宣言とともに各チームが我先にとダンジョンへ入って行く。
俺たちもそれに続いた。
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