第53話 ダンジョン前広場へ行く

 男はそのまま行ってしまう。


 不気味な男だった。

 そう思うも、自分だって面を被っていることに気付いて苦笑する。


「んー……でもなんか」


 さっきの男、どこかで会ったことがあるような。

 顔を隠していたのでなんとも言えないが、そんな気がした。


 ……3人で俺が買って来た焼きそばを食べているとやがて、


「大会開始時刻が迫っております。大会参加者の方々はダンジョン前広場までお越しください」


 そのようにアナウンスが流れ、俺たちはダンジョン前広場へと向かった。


 ダンジョン前広場には多くの参加者が集まっており、周囲の観客席には隙間が無いほど大勢の人がいた。


「うわー人がいっぱいだ。緊張するなぁ」


 仮面が無ければきっとこんなところには立っていられなかっただろう。


「やあ、もしかしてあなたが白面さんかな?」

「えっ?」


 声をかけられ振り返ると、そこには爽やかなスポーツマン風の男が立っていた。


「あなたは?」

「失礼。私の名前は日生流星ひなせりゅうせい。エレメンタルナイツというチームのリーダーをしているものだ」

「エレメンタルナイツって……」


 確か前大会の優勝チームがそんな名前だったような。


「あなたのことはアカツキの配信やニュースで知っているよ。大事件を2つも解決したダンジョンのヒーローだって、以前から尊敬していたんだ」

「そ、尊敬だなんてそんな……」


 2つともたまたま解決に至っただけだ。積極的に解決しようと動いていたわけでもないのに尊敬などさせてはなんだか申し訳ない。


「私もダンジョン内での異形種退治などは積極的にやっているのだがね、依頼の仕事や探索が忙しくて大半はそちらの彼女に任せてしまっているよ」


 日生の視線が無未ちゃんへと移る。


 大量の異形種が発生したときは毎度のように無未ちゃんが行って片付けているので、そのことを言っているのだろう。


「我とて同じ探索者だ。仕事はある。暇とでも思っていたか?」

「いやそういうわけでは。言い訳になってしまうが私はチームを率いているのでね。独断で探索や仕事を放棄して駆けつけるというのが難しいんだ」

「我は依頼の仕事など速攻で終わらせて駆けつけている。貴様らの未熟だな」

「1人で活動しているあなたに言われては返す言葉も無い」


 と、日生は面目無いといった様子で頭を掻く。


「この大会が終わったらエレメンタルナイツのリーダーを辞めて、異形種退治やダンジョンの治安を守る活動に専念するつもりだ。そうなればディアーさんには少し楽をさせてあげられると思う」

「ふん。我の華麗なる殲滅劇に水を差さない程度ならば好きにするといい」

「はは、そうさせてもらうよ。それじゃ、大会ではお互いに正々堂々と優勝を目指してがんばろう」」


 差し出された手を握ると、それから日生は微笑み残して立ち去って行く。


 なかなか爽快な男だ。

 正義感がにじみ出ている。初対面だがきっと良い人だと思った。


「皆さまご注目ください!」


 ダンジョン前広場に設置された舞台上から声が聞こえそちらを向く。

 舞台ではアナウンサーがマイクを持って会場中へ呼びかけていた。


「さーいよいよグレートチームの開始時刻が迫って参りました。開始前にルール説明と注目チームのご紹介をさせていただこうと思います」

「注目チーム……」


 紹介されるのは前回優勝のエレメンタルナイツと恐らく……。


「まずはルール説明です。大会に参加できるのはチームメンバーの3人以上から20人まで。手に入れた魔物の素材によって評価ポイントが付与され、そのポイントの合計値がもっとも多いチームが優勝となります。なお、他チームへの攻撃、及び他チームの得た素材を奪うのは禁止。素材の持ち込みも禁止ですのでご留意ください」


 単純なルールだ。難しいところは特になさそうである。


「今大会の優勝賞金は3億円。それに豪華賞品を贈呈いたします」

「さ、3億円……ゴクリ」


 3等分しても1億円だ。

 これはちょっとやる気出る。


「そしてその賞品とはこちらでございますっ!」


 なにかが載った四角い台が舞台の下からせり上がってくる。

 カメラが近づき、ダンジョン前広場に設置された巨大モニターへその台に載ったものが映し出された。


「あれは……」


 太さからして首輪だと思うが。


「こちらは深層で稀に現れるヘルリザードの亜種で、さらに稀なリバイバルリザードの骨髄を素材に作られた首輪です。ついているスキルは『永続回復』。効果は傷を負っても少しずつ回復するというもので、滅多に手に入ることがない貴重な装備となっております」


 その説明に参加者や観客席から「おお」と声が上がる。


「傷の回復ができる装備ってマジかよ」

「すげー」

「傷を治せる装備なんてあったのか」


 傷の回復ができるスキルというのは確かに聞いたことが無い。


「傷が治るスキルってすごいの?」


 隣で平静な表情をしている無未に聞いてみる。


「当然だ。相手を傷つける装備は数多あれど、傷を癒す装備は大変に貴重で珍しい。ブラック級の我でも回復スキルつきの装備は所持していないほどだ」

「そうなんだ」


 よく見れば無未ちゃんはにやけ顔だ。

 彼女もあの装備は手に入れたいのだと思う。


 周囲が商品の豪華さに湧く中、俺はあの賞品がそれほどすごいとも思わずぼんやりと巨大モニターを眺めていた。


「続いて注目チームのご紹介をさせていただきます。まずは前回優勝チームのエレメンタルナイツ」


 アナウンサーの声とともにカメラが向けられ、巨大モニターにエレメンタルナイツの面々が映し出される。


「参加メンバーの全員がプラチナ級の上位で占められており、前大会では優れたチームワークで優勝をして観客を湧かせました」


 紹介を受けたエレメンタルナイツのメンバーがカメラに向かって手を振る。

 それからリーダーの日生がスタッフからマイクを受け取った。


「エレメンタルナイツのリーダーをしている日生流星だ。チームのみんなと協力をして前大会に引き続き優勝したいと思っている。今回は強力な探索者も参加しているようで緊張しているが、チームワークで正々堂々戦って勝ちたい。応援よろしく」


 そう言って観客席やカメラへ向かって頭を下げた日生へ大きな歓声が送られた。


「続いての注目チームは招待枠でご参加のVTuberアカツキさんのチームをご紹介いたします」


 ああやっぱり。


 注目チームの紹介ならばもちろん招待枠で参加しているアカツキのチームも紹介されるだろうとは思っていた。


 なにかしゃべらされたら嫌だなぁと思いながら、俺は自分たちが映し出された巨大モニターを眺めながら震えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る