第39話 無未ちゃんと出掛ける

 仕事を終えて家に帰った俺はアカネちゃんに電話をしようか迷う。


 あんなに怒っているなら電話でちょっと謝るくらいじゃ許してもらえないかも。やっぱり直接に会って謝るべきだと思う。それにはやっぱり電話をして会う約束をしないといけないわけだが……。


 と、そのとき、


「あ、電話」


 電話がかかってきた。


「アカネちゃんかな」


 しかしスマホの画面にはアカネではなく無未の名前が表示されていた。


「あ、無未ちゃん?」

「あ、うん。こ、こんばんわ小太郎おにいちゃん」


 電話に出ると、ややどもり気味に無未が答えた。


「こんばんわ。どうしたの? あ、もしかして寺平の事件でなにか聞きたいことがあるとか?」


 無未は国家ハンターの依頼で例の事件を調査していたので、事件に関してなにか聞きたいことがあるのかと思った。


「あ、そ、そうじゃなくて……その」


 なにか言い難い相談でもあるのだろうか?


 無未は迷うような声音で話したのち、黙り込んでしまう。


「無未ちゃん?」

「あ、うん。あの、ね、今度お買い物に行くんだけど」

「お買い物?」

「うん。服を買うんだけど、小太郎おにいちゃんに服を見てもらおうかなって思って……」

「お、俺に服を? けど俺、服なんてわからないよ」


 服なんて仕事用のスーツかダンジョンへ行くときの装備、それと部屋着しか着ない。部屋着以外の普段着など滅多に着ないし買わないので、女の子のファッションなどわかるわけがなかった。


「あ、いいのっ。男の人の意見も聞いてみたいってだけだしっ」

「そ、そう? なら別にいいけど」

「じゃあ、えっと……次の日曜日でいい?」

「うんいいよ」

「う、うんっ。えへへ、ありがとう小太郎おにいちゃん」


 弾んだ声の無未ちゃんと待ち合わせ場所や時間を決め、おやすみと電話を切る。


「アカネちゃんに電話は……」


 だいぶ遅くなってしまった。

 あんまり遅くに電話すると迷惑だし、明日にしようと今日は諦めた。


 ……


 ――それから日にちが経ち、日曜日となる。


 あの日からアカネちゃんには何度か電話をかけたが出てもらえなかった。


 相当に怒っている。

 まさかこのまま関係が終わってしまうのだろうか? それはあまりにも寂しいので、なんとか仲直りをしたい。これからもダンジョンへ通い続けるアカネちゃんのことが心配というのもあった。


 どうしたら仲直りできるだろう?


 無未との待ち合わせで繁華街の駅前に立ちながら俺はそれを考えていた。


「あ、こ、小太郎おにいちゃんっ」

「うん? あ、無未ちゃ……」


 呼ばれて振り向くと、そこには大胆に胸元を開いた淡い青色の長袖ワンピース姿の無未が立っていた。


 で、でかい。

 なにがでかいってそれはもう言わなくてもわかるでしょう。


 黒いドレス姿でも大きいのはわかっていたが、今日のワンピースはドレスよりゆったりしているのかより大きく見えた。


 おっぱい。それは人生の縮図。男のロマン。


「小太郎おにいちゃん? どうしたの? なんかぼーっとしちゃって?」

「えっ? いやその、無未ちゃん、今日はいつもと印象が違うなって思って」

「あ、う、うん。会うときはいつも仕事着だったし、あの格好だとわたし目立っちゃうから……」


 こう見ると普通の女の子だが、無未はブラック級ハンター11位の漆黒の女王ディアー・ナーシングなのだ。いつもの黒ドレスではきっと目立つ。


「ど、どうかな? この服? ちょっと大胆にしてみたんだけど」


 大胆とはもちろん大きなおっぱい様の谷間であろう。


 漆黒の女王ディアー・ナーシングの無未は冷たい印象だが、淡い青色ワンピース姿の無未はとっても爽やかで明るい印象だった。

 本来は明るくて人懐っこい子だ。暗いイメージの黒ドレスよりも、こういう服を着るのが無未らしいと思う。


「うん。無未ちゃんらしい明るい雰囲気でいいと思うよ」

「ほんと? えへへ、嬉しい」


 あとエロい。

 このおっぱいの谷間を見つめながらご飯3杯は食える。


 とはもちろん言わなかった。


「じゃ、じゃあ行こっか。小太郎おにいちゃん」

「うん。うふぉぉんっ!?」


 不意に無未が俺の腕を取って谷間へと挟み込む。

 瞬間、魂が抜けたんじゃないかと錯覚するほどの心地良さを腕に感じた。


「な、無未ちゃんっ?」

「ダ、ダメ?」


 頬を赤らめた無未に求めるような視線で見上げられた俺は、


「ダ、ダメじゃないよぉーっ」


 声を上擦らせてそう答えた。

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