かつて異世界で最強の魔王をやってた平社員のおっさん ダンジョンで助けた巨乳女子高生VTuberの護衛をすることになったけど、今の俺はクソザコなんで期待しないでね
第164話 魔人スキル『カニバル』(末松上一郎・渡会視点)
第164話 魔人スキル『カニバル』(末松上一郎・渡会視点)
「な、ななな……っ」
爆発は極小規模だ。
しかし人間の頭を吹き飛ばすには十分に見えた。
「と、父さんっ!」
「いや、だ、大丈夫だ」
一体さっきの爆発はなんだったのか?
自分が死んでいたかもしれない一瞬の出来事に困惑しつつ、上一郎は腰を抜かして放心していた。
「どうやらまだどこかにハンターが潜んでいるようですね」
「ハ、ハンター?」
「上一郎さん、なにか目の前にありませんでしたか?」
「えっ? な、なにかって……虫が飛んでたくらいだが……」
「虫……」
渡会はスマホを操作し、やがて画面をこちらへ向ける。
「恐らくこの方でしょう」
見せられた画面に映っていたのは30歳ほどだろう女の画像。その左には、ブラック級8位、ニーベル・ハーサンとあった。
「彼女のスキルは『虫爆弾』。これは爆発する虫を操るスキルですね」
「そいつが機内に潜んでいるというのか? だったら早くソルベニアにそいつも食わせてしまえっ!」
「どこに潜んでいるかわかりませんからね。しかし近くにはいるでしょう。見えなければ目標へ向かって虫を飛ばせないでしょうからね」
「ち、近くに?」
しかし周囲に見えるのは忠次と渡会、そしてネイラフ、あとは機内スタッフとデュカス関係者らしい客だが……。
「機内スタッフか客に紛れているんじゃないのか?」
「可能性がゼロではありませんが、機内スタッフやファーストクラスへ乗り込むデュカス関係者は厳重にチェックしております。ハンターが紛れている可能性は低いと思いますが……ネイラフ様」
渡会がネイラフへ視線を移すと……。
「おごっ!」
「!?」
3本角の魔人と化したネイラフが、普通ではありえないほどに大口を開く。
こいつもソルベニアのように人を食べるのか?
そう思ったが、
「おご……ごおぉ!」
「うあっ!?」
なにかを吐き出す。
一瞬、嘔吐物かと思ったが、それは完全に固形で、人の形に見えた。
「な、ななな、なんだこれはっ!? なにをしているんだこいつっ!?」
「ネイラフ様の魔人スキルです」
「ス、スキル? これが?」
なにかを吐き出しただけに思えるが。
吐き出されたそれは蠢き、そして立ち上がる。
人間のように見えたそれだが、鼻は異様に尖ってまるで犬のようであった。
「に、人間? いや、なんだこいつは?」
「これは『カニバル・ドール』。ネイラフ様は食べた生き物を体内で繋ぎ合わせて、下僕として吐き出すことができるのです」
「ば、化け物だ……」
魔人という時点でそうではあるが、ソルベニアも含めてこいつらは外見と雰囲気の不気味さから際立ってそう思えた。
犬のような鼻を持ったそれが鼻先を鳴らしながら周囲をうろつく。
「な、なにをしているんだ?」
「すぐにわかりますよ」
やがてそれは足を止め、天井にある証明を見つめる。
そこへネイラフも歩いて行き、
「うおっ!?」
瞬間、数倍にも長く伸びたネイラフの腕がその照明を掴む。
「こ、こいつ腕が……」
「『カニバル・チェンジ』。ネイラフ様は食べた生き物を使って自分の身体に変化を与えることができるのです」
「しかしなんで照明を……」
そう思う上一郎の前で、ネイラフに掴まれた照明が蠢く。そして、
「なっ……!?」
膨れ上がったその照明は人の形となってネイラフの手から離れ、通路の床へと2本の足で降り立つ。
「に、人間? どういうことだ?」
さっきまで照明だったものが、金髪の女へと変わっていた。
「ふぅむ。情報では『虫爆弾』というスキルの使い手でしたが、どうやらもうひとつスキルを持っていたようですね。恐らくは物に擬態化できるスキルかと」
「はっ、お察しの通りさ」
そう言って懐へ手を入れた女は大きなビンを取り出し、それを地面へ叩きつけて割る。
「う、うわああっ!?」
割られたビンからは大量の羽虫が飛び出し、驚愕からか忠次が叫ぶ。
さっきの爆発した虫。これがすべてそうであろうことは明白であった。
「見つけられたのは誤算だったけどよ、目的は……なっ!?」
周囲に散乱する羽虫を掻い潜って伸びたネイラフの舌が、女の身体へ大蛇の如く巻きついて捕らえる。
「こ、この、爆破を……があっ!?」
舌は一瞬で縮んで戻り、女はそのままネイラフに飲み込まれる。しかし爆発する羽虫は残ったままで、緊張は解けなかった。
「ご安心ください。すでに決着はついております」
「しかしまだ虫が……」
そう不安を口にする上一郎の前で動き出した羽虫の群れが、ネイラフの口へと吸い込まれていく。
「こ、これは……中でまだ生きているんじゃ……」
「そうではありません。女を食べたことでネイラフ様が女のスキルをトレースしたのです」
「ト、トレース?」
「つまり女の持ってるスキルを自分のものにされたということです」
「な、なるほど……」
まるで雪華の上位互換のような能力だ。
デュカスとはこんな怪物を容易に作ることできるのか?
ソルベニアやネイラフにくらべれば、雪華のような人造人間など無駄に開発費のかかった失敗作としか思えなかった。
……それからはロシア到着までなにもなかった。
当然だろう。自分たちの命を狙っていたビジネスクラスの客もエコノミークラスの客も、すべてソルベニアの腹へ収められてしまったのだから……。
ロシアの空港を出ると、そこには豪奢な車での迎えが来ていた。
「末松様、お待ちしておりました。どうぞ」
「ああ」
後部座席の扉が開かれ、そこへ乗り込もうとする。
「おとうさん……おとうさん」
「ひっ……」
自分を凝視して呟くソルベニアが気味悪く、急いで車の奥へ乗り込む。
それから忠次が乗り、車は目的地に向かって発車した。
……
……進む車を見送り、渡会はため息を吐く。
「ふう……これで任務は完了」
2人と研究データはロシアへ渡した。
取り引きはこれで完了だ。
「しかし……」
ロシアの連中が知っているかはわからないが、アメリカがあの人造人間開発の研究データを狙っているという情報が入っている。
ここへ来るまではなにもしてこなかった。それはアメリカがデュカスと敵対をしたくないからだ。しかし今、2人と研究データの受け渡しは完了した。これ以降、ロシアとアメリカがあれを巡ってどうなろうとデュカスは関係無い。
「さてどうなるか? まあ、どうでもいいがね」
自分の任務……ポタニャコフ兄弟の手綱を握るという役目は終わった。
あとは戻ってメルモダーガ様へ報告を……。
「うん? え……」
さっきまで側にいたポタニャコフ兄弟の姿が無い。
慌てた渡会が周囲を探すも、2人の姿が見つかることは無かった。
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