第267話 無限の広さを持つ魔王城
……ジグドラスが先行して扉を開き、俺たちは中へと入る。
扉の先は一直線に広く長い回廊が続いており、人の気配は無かった。
「こ、これが城の中なの? なんか殺風景でなにもないね」
「ここはまだ玄関だからね。部屋とかはこの奥」
「ふーん。どれくらい広いの?」
「異次元空間には無限の広さがあるから、この城の広さも無限って聞いたけど」
「む、無限っ!?」
アカネちゃんは一瞬だけ声を響かせるが、慌てた様子ですぐに口を手で覆う。
「じゃ、じゃあ部屋も無限にあるの?」
「たぶん」
この城は装置を開発した研究者が自らの住居兼、魔王の力を納める箱として作ったらしい。城は魔王の力によって無限に増築され、今もなお広がり続けているという。
「あれ? けどそういえばコタツ君とは魔王城の庭で会ったんだよね? コタツ君はどうやって魔王城の庭へ入ったの?」
「ああ。それはこっちの魔王城じゃなくて、見せるほうの魔王城ね」
「見せるほうって?」
「世界を支配してるんだし、人々から見える形での魔王の城もあったほうがいいってことで、異次元の外に建てた魔王城のこと。世界中の人間はそこに魔王が住んでると思っているけど、実際にはこっちが本物ってこと」
「ああ、そういうこと」
「まあ、俺はこっちじゃ広すぎて落ち着かないからって、見せるほうの魔王城にいることが多かったんだけどね」
そのおかげでコタツと出会えたわけだが。
「ふーん。魔王城を探検したみたって動画を撮ろうとしたけど、迷子にでもなったらそのまま行方不明になって死んじゃいそうだね……」
「ま、まあどうしても動画を撮りたいならあとで俺が一緒に回ってあげるよ」
それにはまずイレイアをなんとかして天使から解放しなければいけないのだが。
ジグドラスを先頭に、俺たちはイレイアのいる場所へ向かって回廊を進む。
「このまま何事も無くイレイアのいる場所まで行けたらよいのう」
「うん……」
しかしそういうわけにもいかないだろう。
「すでに我々が侵入したことは知られているでしょう。グラディエがなにかしてくるはずです。皆さんお気をつけ……むっ」
先頭を歩くジグドラスが足を止めた。……そのとき、
「やはり裏切りましたかジグドラス将軍」
目の前に出現した転移ゲートから天使が現れてそう言う。
「裏切ってはいない。イレイアを救うためにしていることだ」
「戯言は結構。イレイア様の許しは得ています。あなたはここでそいつらと一緒に死になさい」
天使が炎の塊をジグドラスへ飛ばす。
俺は前に出て、その炎を身体で受けた。
「ま、魔王様っ!?」
「俺は大丈夫だ。お前は下がっていろ」
神法による障壁で身体を覆っていたため、ダメージは無い。
「な、なにっ? 私の神法が効かない……? まさか神獣と契約をっ!?」
「その通りだ。俺にお前の攻撃は通じない」
「くっ、面倒な……」
天使はジリリとうしろへ下がる。
「なにを言ってイレイアと無未ちゃんを唆した?」
「言いませんよそんなことっ!」
と、天使の周囲へ、背中に翼を生やした生物がぞろぞろと現れる。
「こいつらは……」
「下位天使ですよ。あなたに神法が効かなくても、他の人たちはどうですかね?」
下位天使と呼ばれた生物たちは大口を開けた。
「くっ!」
俺は神法で前面に大きなシールドを張る。と、開いた口から一斉にレーザーが放たれてシールドに防がれる。
しかしレーザー攻撃はそのまま一向に止まず、俺たちは動けなくなってしまう。
「ふははっ! そのままそこで足止めを食らっていなさいっ! すべての世界が吸収されて、世界が混沌へと落ちるまでっ!」
「な、なぜそんなことをイレイアにさせるっ?」
「すべては神の御意志です」
「神が……?」
神は一体なにを考えているのか?
しかしなにを考えていようと放って置くわけにはいかない。
だがこれでは身動きが取れない。どうすれば……。
「僕が……っ」
「えっ?」
俺の頭から降りたコタツが人の姿へと変わってシールドを張り、
「があっ!?」
放たれていたレーザー攻撃を跳ね返して下位天使らを殲滅する。
「な、なにっ!? 下位天使がっ!? くっ!」
「待てっ!」
転移ゲートを開いて逃げようする天使の背へ向かって俺は声を上げる。
「この先で待っていますよ。来れたらですが」
そう言い残して天使は転移ゲートとともに消える。
同時に下位天使が回廊の隅々にまで姿を現す。
「くそっ!」
「魔王様は先へ行って。ここは僕が引き受けるから」
「いやダメだ。お前ひとりに任せるには数が多過ぎる」
「ひとりではないぞ」
と、大人化した雪華が下位天使を殴りつけて消滅させる。
「どうやらお前が神法を得たことはわしらの魔王眷属にも影響しとるようじゃ。これならわしも戦える」
「ゆ、雪華」
「私も微力ながら効果を受けています。下位天使ごときに遅れは取りませんよ」
と、千年魔導士も下位天使を倒して見せた。
「魔王眷属ですか。これは懐かしい力ですね」
真っ白く剣を光らせたジグドラスも下位天使を斬り伏せた。
「先へ行ってください魔王様。そしてどうかイレイアを……」
「……わかった」
ここは皆に任せ、俺はイレイアのもとへ行こう。
天使を倒してイレイアを救えば、ここの下位天使も消えるはずだ。
そう考えた俺は先へ行こうとする。
「あ、待ってわたしも行くっ!」
そのとき俺の腕をアカネちゃんが掴んだ。
――――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
魔王城には無限の広さがあるので、中で迷って人知れず亡くなってた人の死体とかが転がっていそうですね。目的の部屋へ行くのに数日かかるとかもありそうです。
☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
次回、天使に従っている理由が無未ちゃんの口から語られる……。
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