第103話 大企業ジョー松の終焉

 暴露動画の2本目としてアカツキの動画が公開される。

 その内容とは、ジョー松の専務である末松忠次が人間の魔物化、スキルサークレットによってそれを促していることを自ら話している動画だ。

 動画内ではそうすることで生物兵器を強化し、レア素材を大量に得て儲けるなどとも話していた。


 この動画はダンジョン内でした忠次との会話で得たものだ。

 俺はあのとき、アカネちゃんからもらったネクタイピン型の小型ビデオカメラを使ってすべてを撮影していた。

 公開された動画では、念のため雪華の顔にはモザイク処理を施し、名前などは効果音で消してある。魔物化したなどと世間に広く知られては気の毒と思ってのことだ。


 暴露動画の第2弾としてこの動画が公開されるとネット上では騒然となる。


「えっ? マジで? これ本当にジョー松の専務なの? 社長の息子の?」

「俺、ジョー松に営業行って見たことあるけど、本物だよ。声も同じ」

「やべー。ジョー松どうすんだろこれ?」


 この動画が公開されたのち、メディアでのジョー松擁護が無くなる。スキルサークレットの販売で急上昇していた株価は急落し、会社へ見切りをつけたスキルサークレット開発担当者よる内部告発も出てきた。


「アカツキの暴露動画は真実です。魔粒子を大量に身体へ取り込めば人間は異形種になってしまうんです。スキルサークレットが危険なものであることは知っていました。だけど会社へ危険を訴えた仲間が姿を消してしまって……怖くて言えませんでした」


 この内部告発を一部の週刊誌が報じると、メディアは手の平返しでジョー松を批判。内部告発の原因となった忠次が批判の矢面に立つことになる。


「末松さん、動画内での発言は真実ですか?」

「スキルサークレットの開発担当者が内部告発を行いましたが、あの商品の危険性を経営者の方々はご存じだったのですよね?」

「魔粒子でスキルが発現とは嘘だったのでしょうか?」

「そ、その……」


 ジョー松の本社前でマスコミに囲まれる忠次。

 カメラに映るその表情は明らかに疲弊していた。


「ど、動画内の発言は真実と言いますかその……なにかの間違いでしてはい……。魔粒子によるスキル発現はそれを発見した研究者に聞いてください。わ、私は知りません。それじゃあ急ぎますので……」


 マスコミをかき分け、忠次は慌てた様子で車の後部座席に乗って去って行く。


 もはや大企業ジョー松はめちゃくちゃだ。

 この事態に社長が沈黙を貫くわけにはいくまい。


 やがてこの騒ぎにいよいよ社長である末松上一郎が会見を開くこととなった。


「まずは大勢の皆さまにご迷惑をおかけして申し訳ありませんと、謝罪をさせていただきます」


 頭を下げる上一郎へカメラのフラッシュが一斉にたかれる。


「危険がわかりましたスキルサークレットは回収。危険を知りながらそれを隠蔽していた専務の末松忠次は即刻専務を退任解雇し、開発担当者もすべて解雇いたします。私も経営者として責任を取り、社長を退任させていただく所存にございます」


 そう言って上一郎はふたたび頭を下げた。


「つまりそれは、末松社長ご自身はなにも知らなかったということですか?」

「そういうことになります」

「本当に?」

「天地神明に誓って」

「そうですか……」


 俺は深く被っている帽子を掴み、そして投げ捨てた。


「お、お前は……っ」

「残念だよ父さん」


 顔を晒した俺を前に上一郎は目を剥く。


「小太郎っ! どうしてお前がここに……っ」

「もしも父さんが悪事を認めてすべての責任を負うと言ってくれれば、俺個人としては父さんを許してもいいと思っていた。けれど残念だ。あなたはやっぱり俺の知っている父さんじゃ無い」

「こ、こいつは記者じゃないっ! 誰かつまみ出せっ!」

「確かに俺は記者じゃない。ここへわざわざ来たのは取材のためじゃなくて、こいつを披露するためさ」


 俺は父さんの背後を指差す。

 そこへ降りて来たのは巨大なモニターだった。


「な、なんだ……? なんだこれは?」

「見ていればわかるよ」


 俺は右手を掲げて指を鳴らす。

 と、モニターには映像が流れ始める。


「こ……れは」


 そこに映っていたのは俺が雪華を実家へ送り届け、上一郎と会話をしたときに例のネクタイピンで撮影した動画だ。

 動画内では上一郎が忠次と同じくスキルサークレットで人間を異形種にして儲けを企てていることを口にしており、会見の内容が嘘だったことの証明になっていた。


「こ、こんな馬鹿なこと……小太郎……」


 巨大モニターの前で膝をついた上一郎が振り返って俺を見る。

 その疲れたような表情には、わずかだが俺の知っている父親の面影があった。

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