第278話 悪の魔王を作るために(小田原智視点)

 ……ファミレスを出た俺は周辺の町並みをぐるりと見回す。

 道路には車が走り、歩道ではまばらに人々が行き交っていた。


「この町の住人は何人くらいかわかるか?」

「住人の数? どうして?」

「いいから教えろ」

「わかったわよ」


 皇は懐からスマホを取り出して調べ始める。


「……だいたい1万人くらいね」

「おお。結構いるじゃねーか。それじゃあまずは……」


 指をパチンと鳴らす。

 すると辺りはなにひとつ見ることができない闇へと落ちた。


「な、なに? なにも見えなくなったんだけど? あんたどこにいるの?」

「騒ぐなよカマ野郎。これからこの町を楽しいアトラクションに変えてやる」

「アトラクション?」

「ああ。どんなアトラクションかは明るくなってからのお楽しみだ」


 そして闇が消え、周囲に明るさが戻る……。


「ぎゃおおおっ!!!」

「ぐうおおおおっ!!!」

「えっ?」


 皇が驚きに目を見開く。


 行き交っていた人間たちはすべて魔物へと変貌し、車に乗っていた奴らも魔物となって車から飛び出してきていた。


「こ、これは……」

「この町にいる全員を魔物化した。ここはもう魔物の巣窟だぜ」


 静かだった町の雰囲気はもう無い。

 魔物が叫び、破壊をする狂気が目の前にあった。


「こんなことしてどうする気なの?」

「まあそのうちわかる」


 こんな事態になれば、魔王軍とやらが討伐にやって来るだろう。

 しかし討伐されるのは魔物じゃない。人間だ。


 連中が討伐を終えるのが楽しみだと、魔物が暴れる光景を眺めながら智はほくそ笑んだ。


 ……


 ……予想通り、討伐軍がやって来て魔物を討伐していく。

 さすがは魔王軍と言ったところか、苦も無く魔物を倒している様子だった。


 倒しているのが人間とも知らずに馬鹿な奴らだ。


 神の力で姿を消した智と皇は、討伐される元人間たちの魔物を間近で眺めていた。


「魔物はだいぶ殺されたようだな」

「ええ。町の人間たちが消えていることに違和感を感じているようだけど、まさかその人間たちが魔物化してるなんて考えてもいなそうね」

「ああ」


 目の前で魔物を殺しているこいつらは想像すらしていないだろう。

 自分たちの殺している魔物が人間だなんて。


「おい、人間は誰か見つかったか?」

「いや、人は見つからない。魔物ばかりだ」


 討伐隊は困惑した様子で魔物討伐にあたっていた。


「懐かしいわねぇ。確かダンジョンの異形種も人間だったのよね」

「まあここの人間どもを魔物に変えた方法も同じようなものだ。その辺に漂っているらしい神が使った力の残滓を人間どもの身体にぶち込んで増幅させる。そうすると魔物が出来上がるってわけだよ」

「神が使った力の残滓? なにそれ? 魔粒子みたいなもの?」

「そうじゃねーの? よくわからねえよ。なにかわからねーけど、そういう知識が頭の中にあったんだよ」


 恐らく神から力をもらったときにでも、ついでに知識も与えられたのだろう。


「ふーん。でもこれじゃあ魔物が討伐されたってだけじゃない? 魔王の悪評を広げるってことにはならないと思うけど?」

「本番はこっからだ。」


 そう言って目の前で戦う討伐隊と魔物を指差す。


「あれをスマホで動画撮影しとけ」

「うん? 別にいいけど」


 皇は言う通りスマホで撮影を始める。


「あのイノシシみたいな魔物はよぉ。元は小学生のガキだぜ」

「そうなの? それがどうかした?」

「ガキを殺すってのは最低だよなぁ。反吐が出る行為だと思わねーか?」

「レイカーズにいた人間にそんな感情あると思うの?」

「ははっ! その通りだ。ちげーねーよ。けど世間一般じゃあ、ガキ殺しってのは嫌われるんだ。最低最悪ってな」


 だからいい。動画映えするというものだ。


 イノシシの魔物はすでに瀕死だ。

 そこへ討伐隊のひとりが炎の魔法を放つ。


 今だ。


 瞬間、イノシシの魔物を人間に戻す。

 ガキに戻った魔物は、そのまま炎に焼かれて焼失した。


「これでいい」


 討伐隊の連中は困惑している様子だがもう遅い。


 魔王軍の連中がガキを殺す瞬間の映像は手に入れた。


「ガキが殺されたところはちゃんと撮れたな?」

「ええ。けど、魔物から人間に戻るところも撮れちゃってるわよ?」

「うまいこと編集して討伐隊がガキを殺したように作れ。それをネットに流すんだ。そうすりゃこの町から人間がいなくなった理由を魔王軍の仕業にできる」

「わかったわ」


 これでまず計画の第一段階は終了だ。

 次は第二段階だが、それはまた別の場所で行う。


「それじゃあ行くか」

「ええ」


 皇とともにその場を離れ、透明化を解く。


「さて次は別の町へ行く必要があるな」

「また同じことをするの?」

「似たようなことだが、少し違うな。魔王を倒す勇者を作るんだよ」

「どうやって?」

「簡単だ。……ん?」


 皇に説明してやろうと思ったとき、側に気配を感じて振り返る。

 と、そこには汚れた男児のガキがひとり息を切らせて立っていた。


「た、助けてくださいっ! 魔物が……母さんが魔物になって……。周りの人もみんな……。ど、どうして……」

「……」


 涙目のガキに俺は無言で近づく。


「そうか。それは大変だったなぁ」


 そう言ってガキの頭に手を置く。


「は、はい。あの、早く警察に行かないと……」

「そんなところへ行く必要は無いよ。君にはお母さんが待っている」

「えっ? けど母さんは……」


 頭に乗る手の下でガキは一瞬で焼失した。


「ひとり漏らしてたか。ちっ、まだ力に慣れていないってみたいだな」

「あんたよく躊躇もなく子供を殺せるわね。いくら元レイカーズのあたしでも、ちょっとくらいは躊躇するわよ」

「俺のほうが高学歴だからな」

「関係無いでしょ」

「あるぜ。頭の良い奴は自分の決断に迷いがねーんだ。あのガキを生かして置けば人間が魔物になった事実が知られちまう。それは不都合だからな。殺さないって選択肢はなかったんだよ」

「……あんたってたぶん最低最悪の外道だと思うわ」

「俺は正義だぜ。俺に刃向かう奴が悪だからな」


 自分だけが唯一の正義。

 それ以外の正義は存在しない。この正義を悪として刃向かって来る奴がいたらそいつが悪だ。絶対に潰してやる。

 例えそれが世界最強の魔王だったとしても。


「くく……待ってろよ仮面野郎。正義の俺様がすぐに討伐してやるからよぉ」


 異空間にあるらしい魔王城。

 そこへ向かって俺はニヤリと笑った。


 ――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 小田原のクズっぷりは相変わらずのようです。

 神の力を得た邪悪なクズに、魔王様はどう対抗するか……?


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。


 次回は魔物の大量発生に困惑する魔王……。

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