第106話 海辺でおっさんの水着回
まだまだ寒いというこの時期に、俺は海辺で仮面に海パンという異様な姿で立っていた。
寒い。
寒いので人はほとんどいない。
いる人たちもサーファーや海辺を散歩する人たちばかりで、海水浴をしている人間などはひとりもいなかった。
なんで俺がこんなところにこんな格好でいるかというと、それはアカネちゃんが海水浴の動画を撮りたいと言い出したからだ。
ダンジョン配信と関係無くない?
もちろん俺はそう疑問を呈したが、
「ダンジョン配信は最近マンネリ気味だからね。水着回でテコ入れするの」
動画ではアカツキが水着姿になっているらしい。
そしてカメラに映る水着姿の俺。
俺が水着姿になる意味ってある?
誰がおっさんのこんな姿を喜ぶんだよ……。
というか、水着回なら夏場でいいんじゃない?
もちろんそんな疑問も呈したが、
「夏場の海は人が多いでしょ。人が多いと映った人の顔をモザイク処理するのがめんどーなの」
もっともな回答であった。
「アカネちゃんまだかなー?」
ここまではアカネちゃんちの車を借りて俺が運転して来た。なにか準備があるらしく、先に行ってほしいと言われて駐車場で着替えてここまで来たが、こんな見た目でひとりになるのは恥ずかしい。
「早く来てくれないかな」
駐車場のほうを眺めながら、俺はアカネちゃんが来るのを待った。
「お待たせー」
眺める方向から手を振る姿。
こちらへ少しずつ近づいてくるアカネちゃんを目にして、俺はホッとすると同時に歓喜の雄叫びを上げたい気持ちになる。
白い水着。
しかもビキニ姿のアカネちゃんが俺の前へと歩いて来たのだ。
「遅くなってごめんね。寒かったでしょ。はいコーヒー」
マスクにサングラスで顔を覆ったアカネちゃんが、俺へとホットコーヒーの缶を手渡してくる。
しかし俺にはそれを受け取る手が無い。俺の両手はアカネちゃんのビキニ姿を目にした瞬間から合掌の形に固定されていたからだ。
「う、うう……」
美しい。
あまりに素晴らしく美しい姿を前にして涙が溢れてきてしまう。
神様だ。おっぱいの神様はここにいた。
「ありがとう。下界に降臨してくれてありがとう。私はあなたのしもべです。あなたのためならばこの命を捧げましょう」
「ちょ、なに言ってるの? ていうかなんで泣いてるの? 命なんて捧げなくていいから。ね。しっかりしなさい。コタロー?」
「……えっ? あ、あれ? アカネちゃん?
我に返った俺は、不思議そうにこちらを見上げるアカネちゃんと目が合う。
「まさか君がおっぱいの神様だったのか?」
「なに馬鹿なこと言ってるの? そんなわけないでしょ」
「そ、そうだね。ははは……」
しかしビキニ姿のアカネちゃんは美しい。
ばいんばいんのおっぱいがすごいことになってるし、こんなのを見せられたら信仰してしまうのもしかたない。
「け、けどどうしてアカネちゃんも水着に? アカネちゃんは動画に映らないんだし、普通の格好でいいんじゃない?」
「コタローだけをこんな寒い中で水着にしておくわけにはいかないでしょ? 寒いのはわたしも一緒だから撮影がんばってね」
「ア、アカネちゃん……」
身体は寒くても、アカネちゃんのビキニ姿を見れて俺の心はホットだ。もう興奮で寒さなんて感じられる状態ではない。
「それに……」
ズイとアカネちゃんが間近へ迫ってくる。
「この格好ならコタローを我慢できなくさせられるかもしれないし」
「んはぁ……」
巨乳が俺の肌へ触れて潰れる。
「んふふ、我慢できなくなったらいつでも言っていいよ。今日は動画の配信を遅らせて……車で、ね」
「い、いいいいやそれはそのあの……
理性理性理性っ!
俺は念仏のように頭の中で理性という言葉を繰り返して耐える。もう欲望に理性を土下座させて耐えさせているような状態であった。
「どこまで耐えられるかなぁ。ともかく配信の準備をしよっか」
「う、うん」
しかしここはダンジョンじゃないし、一体なにをすればいいのだろう。
「それで、俺はなにをしたらいいの?」
「海辺で遊ぶの。いつもは激しい戦いをする白面が、泳いだり砂浜で無邪気に遊ぶ姿はなかなかキャッチ―じゃない?」
「そ、そうかな?」
おっさんが遊んでる動画なんて楽しいかな?
俺はアカネちゃんの水着姿を見れてすでにマックス嬉しいけど。
「じゃあコタローはそこで遊んでてね。それをアカツキが楽しそうに見てるって感じで動画は撮るから」
「わかった」
とりあえず砂浜で山でも作ろうかと、その場に屈む。。
「配信開始の時間までもうちょっとあるから待ってね……。もうすぐ」
「うん。……うん?」
遠くの空になにか見える。
なんだろう?
なんか……こちらへ向かって来ているような……。
「小太郎おにいちゃんっ!」
「わあっ!?」
やがて目に入ったのは黒い手に乗った水着姿の無未ちゃんであった。
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