第205話 街頭ビジョンにアカツキが登場

 魔人のボスという濡れ衣を着せられた件は一旦、戸塚に任せてその日は解散した。

 慎重に事を進めてみるとは言っていたが、期待できる結果は保証できないとのことだ。


 まったく面倒なことをしてくれた。


 家を出て会社に向かいつつ、俺はため息を吐く。


 結局、アカネちゃんと俺が恋人同士になったので……的な話も後日またということになったが、こちらもこちらで円満な解決が見えなかった。


 まあ、こっちは俺がはっきり言えばいいことなのかもだが……。


 しかし雪華まで混じって、さらにややこしくなってしまった。アカネちゃんのことを愛しているのは間違いないけど、無未ちゃんと雪華ことも大切で……。


「はあ……」


 デュカスの件より、俺にとってはアカネちゃん、無未ちゃん、雪華のことを考えるほうが大切だ。デュカスやマスコミに濡れ衣を着せられた件は、俺が白面にならなければ生活に支障があるわけでも無いし……。


 朝の満員電車に乗った俺はスマホを眺める。


 誰かに見られたりしたら厄介だなと転移ゲートでの通勤は控えていたが、やっぱり使ったほうがいいなと思いつつ満員の中スマホをタップする。


 ……SNSでもアカツキと白面が魔人のボスだったという話題で大盛り上がりだ。しかしテレビほど一方的ではなく、報道に否定的な意見も見られた。


 しかし報道に否定的な意見や、アカツキと白面を擁護するような意見を投稿すると、批判が大量に湧いて叩かれている。叩いているのは所謂、捨て垢だ。通報もしているのか、叩かれたアカウントはすぐに凍結させられていた。


 徹底しているな。


 これもデュカス……いや、メディアが叩きを扇動しているという感じか。


 デュカスとメディアはとことんアカツキと白面を潰したいらしい。


 デュカスの公式サイトでもアカツキと白面を激しく批判している。加えて、デュカスに入信をすれば魔人を追い払えるともあった。


 そりゃあ、お仲間なんだから追い払えるだろうよ。


 恐らくこういうマッチポンプで信者を増やすつもりなのだろう。アカツキと白面はそのプロパガンダに利用された形か。


 あらゆるマスコミのニュースサイトでも、アカツキと白面を世界の敵と批判し、その上で身を守るためにとデュカスへの入信を薦めている。デュカスを国で支援してアカツキと白面が率いる魔人から国を守るべきだと、政治家の多くも主張をしているようだ。


 日本だけならともかく、世界中の政治家やマスコミがこれだ。もう完全にアカツキと白面は世界の敵となっているようだった。


 当分はもうアカツキと白面での行動はできないだろう。

 アカネちゃんはがっかりするだろうが、まあしかたないと思いつつ、俺は電車を降りて駅の構内を歩く。


「うん?」


 なにやら駅前が騒がしい。外へ出てみると、皆が一点を見上げていた。


「なんだ?」


 皆の視線を追うとそこには大きな街頭ビジョンがあり……


「あ、あれは……」」


 街頭ビジョンにはVTuberアカツキが映っていた。


 なんでアカツキが……?


 わけがわからないまま、俺は周囲に混じって街頭ビジョンを眺めた。


「みんなこんにちわーっ☆アカツキでーすっ☆」


 アカツキの声はアカネちゃんの声だ。

 しかしメディアはアカツキと白面が魔人のボスであることを証明するみたいな動画を捏造して公開している。それを考えると、今度はアカツキの偽物を作ってなにか言わせようとしているんじゃないかと俺は疑った。


 そもそも本物が街頭ビジョンに映るわけがない。今やアカツキと白面は人類の敵認定されているのだ。お金を払っても街頭ビジョンに映れるとは思えなかった。


「魔人のボスがなんで街頭ビジョンに映ってんだ?」

「も、もしかしてここが魔人に襲撃されるっ?」

「警察……いや、デュカスの祈りをするんだよっ! そうしたら魔人は追い払えるんだっ! みんな祈りましょうっ!」


 アカツキが現れたことで魔人の襲撃があると思った周囲の人間たちが慌て出す。大多数はよくわからない祈りを始め、デュカスと政府やメディアが行った邪悪なデマによる洗脳は成功してしまっているようだとうんざりする。


「時間があんまり無いから手短に言うね☆まずあたしと白面さんは魔人のボスじゃないからね☆魔人のボスはデュカスのメルモダーガ☆各国の政府やメディアもみんなグルだよ☆グルになってデュカスの世界支配に加担しているの☆」


 自分たちが魔人のボスというのは濡れ衣だと訴え、その上でデュカスこそ魔人のボスであり政府やメディアはグルだとアカツキは真実を伝えていく。


「デュカス信者の祈りで魔人を追い返せるのは連中が仲間だからだよ☆魔人は信者の祈りでしか追い払うことができないって、そう信じ込ませて全人類を信者にして世界を支配するのがメルモダーガの目的なの☆」


 ……それは真実だ。とはいえ、


「デュカスが魔人のボス? なに言ってんだ?」

「デュカスは魔人から人々を守ってくれているんだっ! 人類の救世主であるメルモダーガ様が魔人のボスだなんてありないだろっ!」

「世界中の政府やメディアがグルになってデュカスの世界支配に加担してるだって? そんなの信じられるかっ!

「メルモダーガ様は救世主っ! みんながそう言ってるっ!」

「デュカスを信じれば魔人なんて怖くないっ!」

「メルモダーガ様万歳っ! デュカス万歳っ!」


 そう簡単に信じてはもらえない。

 やはり世界中の政府やメディアがデュカスの味方というのは大きかった。


 しかしなぜ偽物のアカツキは濡れ衣であることを訴えたり、デュカスの真実などを伝えたりしているのだろう? 信じられなくても、本当のことを人々に知られるのはデュカスにとって不都合に思えるのだが。


「今は信じてもらえなくてもいい☆けどいずれは明らかになることだよ☆それまでちょっとゲームでもしようか」


 ゲーム?


 一体なにを始めるつもりなのか? 俺は周囲の人間たちと同じく疑問の表情を浮かべながら街頭ビジョンに映るアカツキの言葉を待つ。


「わたしたちとするゲーム。それは……白面さんを倒した人に5億円あげるっていうゲームっ☆」

「え……?


 俺を倒したら5億円?


 そんなことを始めて一体なんの意味があるのか?

 意図がまったく読めなかった。


「あっと、もう時間切れだね☆ゲームの開催期間はあたしたちの無実が証明されるまで☆白面さんの居場所はこうやってあちこちの街頭ビジョンで教えてあげるからみんながんばってね☆それじゃ☆」


 そして偽アカツキは街頭ビジョンから消える。


 ……なるほど。デュカスは俺を始末するために賞金を懸けたということか。しかしこれは俺が白面にならなければ成立しないゲームだ。俺は白面にならないし、目論みは外れたなと心の中で嘲笑う。


 だが賞金を懸けるだけならアカツキを使う必要は無い。

 なぜ偽物のアカツキなんてものをわざわざ作って、賞金付きのゲームという形にしたのか? アカツキ白面を魔人のボスに仕立て上げているのはメディアの人間だし、番組でも作るように盛り上げを狙って……。


「うん?」


 と、そのときスマホが鳴る。相手はアカネちゃんだった。


 ――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 白面を倒したら5億円。強さを考えたら安すぎますね。ただ、世間は白面を魔人のボスだと考えているので、賞金が無くても居場所がわかれば討伐しにわんさか集まってきそうです。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回はアカツキの始めたゲームの真相が明らかに……。


 @wesleeさん、レモスコさんからギフトをいただきました。ありがとうございます。

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