第204話 魔人のボスはアカツキと白面?

 取っ組み合っていた3人は俺と一緒にテレビへ目を向ける。

 チャンネルを変えて別のニュースを見るも、そっちでもアカツキと白面を魔人のボスだと報道していた。


「ちょっとこれどういうことっ!」

「いや、俺に聞かれても……」


 なにがなにやら……。


 テレビに映っているアカツキと白面は俺たちじゃない。合成か、もしくは別人だと思われた。


「こ、これって本物じゃないよね? 小太郎おにいちゃん?」

「うん。合成か別人だと思うけど」

「なにやら陰謀を感じるのう」


 ふぅむと唸って雪華がそんなことを口にする。


「陰謀?」

「うむ。誰かがお前たちを嵌めようとしているのかもしれん」

「誰か……まさか」


 デュカス。

 魔人の身体を乗っ取った戸塚の話に依れば、デュカスは世界中の政府やメディアに強い影響力を持っているらしい。奴らならば日本のメディアを使って俺たちを魔人のボスに仕立て上げるのも容易いだろう。


「コタロー、これもしかして……」

「たぶんデュカス……いや、アカツキと白面はマスコミにもだいぶ嫌われているらしいから、そっちかもしれないけど……」


 レイカーズやジョー松の件でいろいろ隠蔽してたマスコミは世間から大バッシングを受け、その原因となったアカツキと白面をかなり恨んでいると聞く。デュカスの可能性もあるが、そっちという可能性も……。


「両方だよ」

「えっ?」


 キッチンのほうから声が聞こえて振り向くと、そこにはフランソワの姿をした戸塚とシェンが立っていた。


「お、お前戸塚……鍵はかかってたはずだけど?」

「なんか知りませんけど、わたし鍵開けが得意になっていたんですっ」


 胸を反らしてドヤるシェン。


 そういえばあの魔人は中国政府に使われていた元スパイとかだったか。記憶が残っていることで、シェンはスパイの技術を会得してしまっているようだった。


「なんじゃあいつら?」

「戸塚とシェンだよ」

「ああ、あのクルーズ船で魔人の身体を乗っ取ったテロリストの男か。と言うか、前も女の姿で来たのう。そういう趣味なのかの?」

「はははっ。男は何十年もやったからねぇ。これからは女で生きていくのもおもしろいんじゃないかと思っているよ。出産も経験してみたい」

「あんな痛いものを経験したいなど変な男じゃ」

「しかしその痛みを女性は望んで経験する。不思議なことだよ。僕も経験をすればわかるかもしれない。その不思議がね」

「お前のような男にはたぶんわからん。痛いだけじゃよ」


 ……中身が男のテロリストが出産を経験したいと言い、中身が幼女で記憶だけ大人の巨乳美女が出産経験を語っている。なんとも濃い光景だった。


「それで、両方ってなんだよ?」

「君たちを嵌めているのがデュカスとマスコミの両方ってこと。君たち、毎陽新聞会長の佐野清州って知ってる?」

「あ、なんかメディアの大物って聞いたことある」


 無未ちゃんの言葉に戸塚が頷く。


「奴はデュカスと密接に繋がっている。デュカスの指示か奴の考えかは知らないけど、ともかくメディアがアカツキと白面を魔人のボスと報道を始めたのは佐野の仕業だろうね」

「アカツキと白面を魔人のボスにしてどうするつもりなんだ? まさか単なる嫌がらせでここまでしてるのか?」

「デュカスには計画がある。魔人を使って世界を裏から支配するというものだ。デュカスだけが魔人に対抗できる組織として、世界中の人間をデュカスの信者にするのが目的なんだよ」

「その計画と今回の件はなにか関係があるのか?」

「アカツキと白面を魔人のボスにして、その2人をデュカスが倒せば世界の賞賛は一気にデュカスへ集まる。計画に弾みがつくって、そんな考えじゃないかな」

「けど俺たちは魔人を倒してる動画だってあるんだぞ?」

「自分たちが魔人のボスだと疑われないためのマッチポンプ……って、報道もニュースではされていたよ」

「……」


 これは参った。今後はアカツキ白面で行動するのは難しくなりそうだ。


「あっ」


 テレビに目を向けると、ニュース番組のスタジオでメルモダーガが話をしているのが見えた。


「メルモダーガさん、今回、アカツキと白面が魔人を操っていたことが判明したわけですが、この件に関してどう思いますか?」

「許せませんね。正義の振りをして大勢の人々を殺戮してきた彼らには厳しい罰が下るべきだと思います。動画撮影のためかなにかは知りませんが、私利私欲のために殺された人たちを思うと……ううっ」


 ハンカチを取り出して目元を拭うメルモダーガ。


 白々しい。しかし大勢はメルモダーガが魔人のボスであることを知らない。このような放送を見れば、誰もがメルモダーガに共感して善人と思うかもしれない。


「こんな嘘ばっかり放送してなんなのっ! クレーム入れてやるっ!」

「無駄だと思う。この放送にデュカスが関わっているなら、俺たち視聴者の声なんかをテレビ局が聞き入れるわけはないし」

「だったらこのまま放って置くってのっ!」


 アカネちゃんに胸ぐら掴まれつつ、俺は思案する。


 メルモダーガを始末するのは難しくないだろう。しかしそれだけではアカツキと白面が魔人のボスだというデマを払拭することはできない。どうすれば……。


「少し僕に任せて任せてもらえるかな? もしかしたら君たちの無実を証明して、デュカスの本性を世界に知らせることができるかもしれない」

「どうする気だ?」

「この身体を使う」


 と、戸塚は自らの身体を指差す。


「あ、そっか」


 戸塚の意図がわかったのか、アカネちゃんが声を上げる。


「フランソワの身体を使って、メルモダーガに近づくってことだね。それであいつが魔人と親しいところでも隠し撮りできれば……」

「そういうこと。けどうまくいくかはわからない」

「どうして? あ、フランソワがもう死んでることを知られているかもしれないからってこと?」

「それよりももっと深刻な問題さ。人間を魔人に変えることができるメルモダーガは、人間の中にある魔人の力を感じることができる。この身体に魔人の力は無い。近くに行けば偽物だってすぐに知られる」

「じゃあ俺が変化魔法で近づいてみるか」


 俺の変化魔法なら魔人のスキルまでコピーできる。


「けれど君だって本物の魔人ってわけじゃない。コピーはできても力は偽物だ。気取られる可能性はある」

「確かに……そうだな」


 気取られずにうまくいくかもしれない。しかし一度でも失敗をすれば警戒されて、二度目は難しくなる。事は慎重に運ぶべきだろう。


「それにドルアンという魔人が厄介だね」

「ドルアン?」

「イギリスで君の前に現れた背の高い魔人だよ」

「ああ。あいつか」


 なにか奇妙なスキルを使う奴だったと記憶している。


「ドルアンはメルモダーガに忠誠を誓っている魔人の大将さ。いつもメルモダーガの近くにいて側近のようなこともしている。詳しいスキルは知らないけど、どうも未来を見ることができるんじゃないかってフランソワの記憶にあるね」

「未来を? けど、そんなスキルがあったら、コタローに喧嘩を売るような真似をメルモダーガにさせないだろうし、違うんじゃない?」

「ははっ、確かに。けど近いスキルは持っているのかもね。もしも未来を見るスキルなんてあれば、こちらの意図は知られてしまう」

「前途は多難だな……」


 マスコミのすべてが敵だ。

 この状況をひっくり返して濡れ衣を晴らし、メルモダーガと魔人の関係を世間に知らせるのはなかなか難しそうだった。


 ――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 戸塚はすっかり仲間として馴染んでしまってますね。おかしな奴ですが、頼りにはなりそうです。


 フォロー、☆をいただけたら嬉しいです。

 感想もお待ちしております。


 次回はアカツキが街頭ビジョンに登場。

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