第254話 会に潜むスパイ
……施設へナルマストスらが来る1日前。
戸塚に呼ばれた俺はアカネちゃんたちを連れて宗教施設へとやって来る。
「それで、なにか考え付いたのか?」
今も全世界で信者たちがイレイアの出した討伐命令によって襲われている。一刻も早く助け出さなければと俺は気持ちを焦らせていた。
「ああ」
地下にある巨乳美女を守る会の施設内にある部屋へ会員のすべてを集めさせた戸塚は、首を巡らせて彼らを見回す。
「これ」
と、戸塚は懐から小瓶をひとつ取り出す。
「なんだそれ?」
「これは人間の戦闘力を一時的に増大させる秘薬さ。ただし効果は3日間で、それを過ぎると絶命する」
「そんなものどこで……いや、それをどうするんだ?」
「ここにいる全員に飲んでもらう」
それを戸塚が言った瞬間、皆がざわめく。
みんなが騒いで当然だ。死ねと言っているようなものなのだから。
「幼女を愛でる教の信者が減れば力を溜めることができなくなり、イレイアによって小太郎君は殺されてしまう。恐らく君らも一緒に殺され、巨乳美女を守るという目的は果たされずに終わる」
……極論過ぎる気もするが、まあそうなるかもしれない。
「それを防ぐために、彼とともに敵の本拠地に攻め込んで大陸魔王ナルマストスを倒すんだ。決死の覚悟でね」
と、戸塚は会の人間たちの前へ小瓶の入った箱を置く。
「さあ取りたまえ。ともに戦うんだ」
「お、おい。攻め込むなら別に俺ひとりでも……」
「なにを言っているんだ? 彼らは君の同志だ。君ひとりに戦いを任せてここで待っているなんてできるわけないじゃないか」
「いやでも……」
あの小瓶に入っている薬を飲めば、戦闘力は増大するのかもしれないがその後に死んでしまう。そんなもの飲むわけないし、飲ませるわけには……。
「その通りですっ!」
「えっ?」
大声を上げた諏訪が箱から小瓶をひとつ取る。
「例え役に立てなくても、会長ひとりに戦わせるわけにはいかないっ!」
「そうだっ! 俺たちは巨乳美女を守ることに命を捧げたんだっ! 巨乳美女を守るために戦って死ぬならこの命は惜しくないぞ」
「俺もっ!」
「俺もだっ!」
そう次々に言って、会の者たちは箱から小瓶を取る。
やがて全員が小瓶を手に持った。
「素晴らしい。よし。それを飲んだらすぐに小太郎君の転移ゲートを使ってナルマストスの居城へ攻め込む。さあの飲むんだ」
「いや、ちょ……」
小瓶を開けた全員は迷うことなく中身を飲み干す。
あれを飲んだら死ぬ。それがわかっていながら……。
「うん?」
全員が飲んだ。と思ったが、ひとりだけ小瓶を手に静止している者がいた。
「おい木部? なぜお前は飲まないんだ?」
「いやあのその……」
木部と呼ばれた会員はしどろもどろな様子で言葉を吐く。
「巨乳美女のためなら命を捨てられる。その思いが入会の条件だったはず。ならばそれを飲めないはずはないだろう?」
「そ、それは……」
「どうやら潜入者が見つかったようだね」
「えっ?」
戸塚は木部の前まで歩いて行き、
「うあっ!?」
胸倉を掴んで地面へと引き倒した。
「潜入者? この男が?」
「ああ」
「い、いや待ってくださいっ! 違うんですっ! ただ覚悟が決まらなくて……」
「君の考えは甘いな」
「えっ?」
「会の人間は巨乳美女のためなら死ねる人間を厳選して入会させている。君は本物の木部を殺して会に潜入した偽物だろう。姿は魔法で変えているのかな? 小太郎君」
「あ、うん」
魔法で姿を変えているなら解除は可能だ。
木部へ向かって俺は指をパチンと鳴らす。すると男だった姿が女へと変わった。
「やっぱりか」
「ク、クソ……っ」
木部だった女は悔しげな表情で戸塚を睨み上げる。
「け、けどその小瓶を飲んだせいでお前らの大半は死ぬっ! ふははははっ! しかも無駄死にだっ! ざまあみろっ!」
「これは食紅を溶かしたただの水だよ」
「えっ?」
「君をあぶり出すために罠を張ったのさ」
小瓶に入っていたのはただの水。
そして今までの言動すべてが潜入者を見つける罠だったと聞いて、木部だった女は目を丸くしていた。
「さてナルマストスの居城に攻め込んでも無駄死にとはどういうことかな? 君が知っていることをすべて吐いてもらうよ」
「な、なにも話す気は……」
「僕は見た目よりも残酷だよ。聞きたいことを君から絞り出す方法なんていくらでも知っているし、君を壊してしまうことにも躊躇は無い」
今の戸塚はかわいらしい幼女の姿をしている。
しかしその顔は冷徹そのものであり、味方である俺でもゾッとしてしまった。
――――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
あぶり出された潜入者はどうなってしまうのか?
それを知るのは戸塚のみ……。
☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
次回、魔法を超えるナルマストスの攻撃とは……?
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