かつて異世界で最強の魔王をやってた平社員のおっさん ダンジョンで助けた巨乳女子高生VTuberの護衛をすることになったけど、今の俺はクソザコなんで期待しないでね
第156話 黒き女王による断罪(椿遊杏視点)
第156話 黒き女王による断罪(椿遊杏視点)
なに?
白い空間だったのが、いきなりすべてが真っ黒に変わった。
上下左右すべてが黒。暗いのでは無い。黒いのだ。例えるならば、壁も床も天井もすべて黒で塗った部屋に閉じ込められたようだった。
「ど、どうなって……はっ!?」
さっきまで足元に蹲っていた鹿田の姿が無い。
どこへ行った?
羽佐間を見ると、彼は首を横へ振った。
「ああ、また黒い手で隠れたんだ」
この真っ黒な状況は鹿田が作り出したのだろう。
しかしそれがなんだ? ただ黒いだけ。状況はなにも変わらない。
「羽佐間さん、引きずり出してやって」
「はい」
羽佐間が指からレーザーを撃つ。
……しかし待っても鹿田は姿を現さない。
「なに? 出てこないけど? 当てたんでしょ?」
「いえ……」
羽佐間は難しい表情で声を出す。
「レーザーは……撃った瞬間に消えてしまって……」
「は?」
どういうことだ?
羽佐間の指から射出される『レーザー・スナイパー』は一度、目標を定めればどこにいようと命中させることができるスキル。それが撃った瞬間に消えるなど意味がわからなかった。
「逃げた? いや、わたしが解除するか死なない限り、ここからは出られない。どこかにいる。必ず」
真っ黒な空間で周囲に首を巡らす。
しかし見渡す限り黒一色のみで、何者の姿も見えなかった。
「出てきなよっ! 隠れたってここからは逃げられないんだからさっ!」
時間を無駄に浪費するだけ。
結果はなにも変わらな……。
「我はどこにも隠れてなどいない」
「はっ!?」
耳元で声。
振り向くも、しかしあるのは黒一色のみ。
「ど、どこだっ!」
すぐ近くにいた。
だというのに、周囲に姿は無い。
「なに……? なにか変……?」
ここに隠れられる場所なんてない。しかし鹿田の姿は無い。仮に隠れていたとしても、羽佐間のスキルから逃れるのは不可能……。
「一体……あの女はどこに……?」
考えとは違うなにかが起こっている。
その正体がわからず、椿はひどく気持ち悪い思いをした。
「ぐぎゃああああっ!?」
「えっ?」
突如、羽佐間の悲鳴が響く。
見ると、羽佐間の身体がなにかに押し潰されるように歪んでいた。
「あぎゃあああっ!!!」
「な、な、な……なに……っ?」
そしてグシャリ……。
潰されて絞り出た羽佐間の身体は黒に飲まれ、血も真っ黒な地面に消えていった。
「あ、ああ……」
ここはただ黒いだけの空間じゃない。
なにかある。それがなにかはわからないが、恐ろしく危険な状態に自分が置かれているということに椿はようやく気付く。
このままでは羽佐間同様に殺される。
しかし椿にはまだ手があった。
「し、鹿田さぁん。わたしのスキル覚えてるかな? 『ボイド・タッチ』。触ったところに虚空を生み出すスキルね。わたしぃ、番組収録で白面さんにいーっぱい触ったの。首のところにもいっぱいね。つまりわたしがスキルを発動すれば白面さんの首は飛ぶってこと。わか……ぎゃあっ!?」
足首に走った激痛に言葉を止めて叫ぶ。
そして転げ、自分の足首がなにかに切り落とされたとわかった。
その足首を再生させ、椿はよろりと立ち上がる。
「て、てめえ鹿田ぁ! マジで白面ぶっ殺すぞコラぁっ!!!」
「やってみろ」
凍えるような冷たい声が耳を通り抜け響く。
「白面の君は我より圧倒的に強い。貴様のお粗末なスキルなど利きはしない」
「マ、マジだぞっ! やるからなっ!」
「構わない。やれ。だがその瞬間にお前はさっきの男と同じ運命を辿ることになる。その運命を受け入れる覚悟があるのなら……さあ、やってみろ」
どこにいるのかはわからない。
しかし全方位から視線を感じるような、不気味な気配が身体を震えさせた。
(こいつは本気だ。なにがなんでもわたしを殺す気でいる)
分が悪い。
ここは逃げるべきだ。
「け、けはは。わかった。今日のところは見逃してあげるから」
虚空から外の虚空へ移動しようとする。
……しかし移動はできなかった。
「な、なんでっ!? わたしのスキルが発動しないっ!?」
こんなことは今までに一度も無い。
なんどスキルを発動させようとしても、結果は同じ。虚空から外へ出ることはできなかった。
「無駄だ」
そこへ鹿田の凍るような声が降りてくる。
「この空間はすべて黒。我そのもの。虚空など存在していない」
「ど、どういうこと?」
「貴様は我の中にいる。我という黒。『黒き女王の宮殿』内に」
「黒き女王の……宮殿」
それを聞いてすべてを理解した。
鹿田は最初から隠れてなどいなかった。信じ難いことだが、この黒一色すべてが鹿田そのものなのだ。
逃げられない。そう悟った椿ができることはひとつしかなかった。
「ね、ねぇ鹿田さん? わたしね、二見さんのこと実はすごく後悔しているの。反省もしてる。芸能界は引退して警察への自首するから、ね」
命乞い。
鹿田は国家ハンターから安い金で依頼を受けて人助けをするような甘い奴だ。何度かのドラマ出演で培った演技力で許しを請えば、見逃してくれるはず。
「だからごめんさい。鹿田さんには許してほしいの。お父さんとお母さんもわたしが死んだら悲しむし、ほら、殺人は犯罪だよ。どんなに悪い人がいても、裁判も無くその人を死刑にするのはダメだと思うの」
「……」
鹿田はなにも言わない。考えているのか? やはり甘い奴。
「常識のある鹿田さんならどうすればいいかわかるよね? ね?」
「ああ、もちろん」
鹿田の声が耳元で響く。
それを聞いて椿はニヤリと……。
「ぎゃああっ!」
鋭利なものが目に突き刺さり悲鳴を上げる。
「ここは我の宮殿。我こそが法律ぞ。そして我こそが常識」
「ひ、ひいいっ!」
「貴様は血反吐を吐くほど悲鳴を上げさせたのち、さっきの男よりじっくりと時間をかけて握り潰して殺してやる」
「や、やめ……ぎゃああっ!」
そしてまた身体のどこかが切断され、再生をする。
それが何度か繰り返されたのち、枯れた喉で血反吐を吐いた椿は悲鳴も上げることなく鹿田無未……黒き女王の宣言通りにグチャリと始末をされたのだった。
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