第21話 小田原親子、社長へ土下座謝罪をする(小田原智視点)

 ……アカツキの動画が配信されたのち、前回の動画では沈黙していたマスコミが堰を切ったようにレイカーズのやっていた犯罪行為の報道を始めた。

 もちろんリーダーの藤河原英太が国家ハンターに所属しているハンターであったことも報道され、世間は国家ハンターを強く非難した。


 リーダーの藤河原英太は逮捕。本部長は辞任。レイカーズのメンバーも大半が逮捕されたが、一部は証拠不十分で逃げれた者もいたようで……。


「申し訳ありませんでしたっ!」


 社長室へ赴いた専務の小田原喜一郎は、息子である智の頭を床へ打ち付けて社長の伊馬へ土下座をしていた。


「こ、こいつは悪い知人に騙されてあの動画のあの場にいただけでして、どうか、どうかご容赦していただきたく……」

「……」


 社長の伊馬はなにも言わない。

 ただじっと2人の親子を見下ろしていた。


「お前も謝らんか馬鹿者っ!」

「も、申し訳ありません……」


 か細い声で智は謝罪の言葉を口にする。


 なぜ自分がこんな目に。

 相手が誰であれ、土下座という行為は屈辱だ。


 させるのはいい。

 しかしするのは怒りに震えるほどに嫌だった。


「犯罪行為を撮影した動画も存在するようだが?」

「そ、それには息子が映っていなかったことは確認されております。そうでなければここでこうしてはいられません」


 不幸中の幸いと言ってもいい。


 智は犯した女を大量に動画で撮ってスマホに保存していた。

 しかし撮ったのはすべて相手を映すだけのハメ撮りばかりで智自身の姿は映っていなかった。そのため、かなり強引ではあったが、父親の雇った優秀な弁護士の手腕もあって、なんとか証拠不十分で釈放になったのだ。


「ですからどうかクビだけはっ! こいつにはきつく言って反省させますので、どうかクビだけはご勘弁くださいっ!」


 一緒に土下座をしつつ、父親は必死に社長の伊馬へ弁解をする。


 ここまでする必要があるのか?

 こんな屈辱を味わってまで、この会社に縋る必要はあるか?


 自分は優秀だ。

 高学歴の上級で、頭を下げるような人間じゃない。


 そういう考えが智の中にはあり、悪事を働いたことに反省など無く、謝罪の気持ちなどもまったくなかった。


「……わかった。司法の判断を信じよう」

「しゃ、社長っ! では……」」

「しかし今まで通りの役職で働かせるわけにはいかない。課長職からは降格だ。証拠不十分で釈放されたとはいえ、犯罪組織と関わっていたのは事実なのだからな」

「そ、それはもちろんです」

「うん。とりあえずはしばらく自宅謹慎だ。謹慎後は平の社員として働いてもらう。いいね智君」

「……」


 平社員。

 今まで下に見てきた連中と同じ立場になって働く。

 そんなことに耐えられるとは思えない。


「さ、智っ! 返事をしないかっ!」

「は、はい。わかり、ました……」」


 しかし今はそう返事をするしかなかった。


 ……その後、父とともに自宅へ帰った智は、


「がはっ」


 父親に殴られて俯く。


「この馬鹿めっ!」

「親父……」


 殴られた痛みは少ない。

 しかし初めて父に殴られた事実は衝撃だった。


「まったくとんでもいことをやらかしてくれたなっ! お前のせいで下手をすれば俺までクビになっていたところだぞっ!」

「け、けど親父よぉ」

「けどじゃないっ! 俺が有能な弁護士を雇ってやらなければお前は今ごろ拘置所だぞっ! 自分がなにをやったか自覚しろっ!」

「親父だっていろいろやってんだろ? 俺もやったっていいじゃんかよ……」

「やるならうまくやれっ! 絶対にバレるなっ!」


 よくは知らないが親父はなにか反社会的な連中と付き合いがあるらしい。

 だったら自分もとレイカーズに入ったわけだが。


「うまくやってたさ。けどあいつが悪いんだ。あの仮面野郎が……」


 白い仮面を被ったあの男。

 奴のスキルで身体は傷だらけ。なぜか自分だけ顔をはたかれた上に土下座までさせられ、智は思い出しただけで屈辱で表情が歪んだ。


「あいつさえいなければこんなことにはなっていなかったんだ……っ」

「だったらそいつをどうにかすればよかった。力で勝てないなら金を使え。金を使って懐柔するなり、より強い者を雇うなりできるだろう」

「金か」


 確かにそうだ。


 今の自分ではあいつに勝てない。

 しかしあいつが強いのは強力なスキルを持っているからだ。

 スキルを手に入れるには装備だ。

 金で強力な装備を集めればあいつに痛い目を見せてやれる。


「ともかくお前はしばらく家で謹慎していろ。余計なことはするな。おとなしくしていればいずれ課長職に戻してやる。いいな」

「わかったよ」


 おとなしくしているつもりなどない。

 白仮面を被った男へ自分が味わった屈辱の万倍は仕返しをしてやるため、智はこの謹慎期間を有効に活用しようと企んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る