📰 もりおかなう 📰

医師脳

第1話 セカンドライフ

 「人生は一度きりだから…」と、ターニングポイントのたび、あとさき考えずに選択してきた70年。


 いわゆる白い巨塔を離れた頃、

 国際医療協力に取り組んだ頃、

 両親の介護で高齢者医療に転身した頃、

 東日本大震災の医療支援に飛び込んだ頃など。


 後悔はしていないが、そのたびにリセットしていたら、今の「盛岡ぐらし」は何番目の人生になるのだろう。


 散歩がてらに入った本屋で、「実践小説教室」が目に留まった。

「教え子二人が芥川賞同時受賞!」と評判の根本昌夫著だ。図書カードがあったので、迷うことなく購入。

 面白く読み終えた。

 曰く、「小説とは(エッセイも含み)何でもありだ」と。

 そして、「正しい日本語と小説の文章は違う」とも。


 目から鱗が落ちた。


 医学に限らず、論文では正確に伝えることが最優先だ。そんな文章ばかり、40年以上も書いてきた。

 これからは、心の中にあることを、もっと自由な形で表現したい。


 『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』を読み、「辞書なしで文書を書くのは、どんな大作家でも無理です」と諭された。

 本屋へ向かったものの、種類が多すぎる。決め手は「ベストセラー一位」のポップ。

 言い訳になるが、井上ひさし流アドバイスを思い出した。

「辞書は何でもいいんです。丁寧にあたれば、ちゃんと書いてあります」


 これまで使っていたのは、電子辞書といわれる代物。

 広辞苑や漢和辞典だけでなく、日英仏辞典なども盛り込まれた優れものである。

 15年ほど前、何度か海外出張する際に軽くて便利だと使い始めた。

 当座しのぎのつもりが、医療支援で被災地を廻る際にも随分と役立った。

 これからも丁寧に使い続けたい。


 第二の人生が始まった。

「エッセイストの名刺も作ろうかな」と呟いて、妻に笑われた。


(20180924)

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