第18話 趣味の王様

 「CQ CQって言わないの?」と妻。

 ここじゃ長いアンテナを張れないし…とマイクを握らない言い訳。

 〈ベランダ無線局〉の小さなアンテナでは、マイクで呼んでも電波が遠くまで届かないのだ。

「弘前に戻ったら、庭中に張れるから、それまでの我慢ね!」と諭された。


 〈盛岡から世界へ!〉と、WSPRを発信している。

 WSPRとは〈微弱電波伝搬報告プログラム〉の略語。

 その読み方は「ウィスパー」で、whisper(ささやく)と同じ発音だという。微弱電波を受信した側でパソコン解析する仕組み。


 ちなみに、モールス通信の数十分の一の弱い信号にWSPRは頼っている。

 実際、南アフリカのZS6BK局から受信報告が届いた。13,728km彼方へ飛んで行ったという。

 さすがWSPRの威力…と言っても、すごいのは相手局の受信能力なのだ。

 当局の装備は、出力10Wの無線機とパソコン、そしてベランダのモービル用アンテナ…これだけだ。


 アマチュア無線の再開局は七年前…〈医療で震災復興プロジェクト〉を始める際、被災地での非常通信手段に役立つだろうと準備した。

 30年前のコールサインJF7IDVの再使用も考えたが、手続きが面倒なため、新たにJP7DVXで免許状(局免)を受けた。

 いつでも持ち歩けるようハンディ機を購入し、陸前高田市や気仙沼市で運用した。


 そのうち物足りなくなり、南三陸町時代には短波用無線機を買い足す。


 そして今や、〈第三級アマチュア無線技士〉である。

 さらに上級の資格も目指したが…加齢による忘却曲線を実感して…あっさりと断念した。どうせ100Wの無線機なんて使うこともないのだから…と。


 欧米では「King of Hobby」と称されるアマチュア無線だ。

 王様との折角の再会を、これからも大切にしたい。

○これやこの〈趣味の王〉を名のれどもベランダに揺るるアンテナや小さき


(20190603)

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