第17話 終(つい)の食
近頃、「ついのすみか」と耳にする。
…が、そもそも老健施設は該当しない。
それどころか、「老健の在宅復帰・在宅支援の機能強化」が叫ばれてもいる。
しかし実際には、長期入所による超高齢化が目立つ。
アラク(卆寿)はザラで〈人生百年時代〉を実感する。
〇カルモナの長寿番付。横綱は大正うまれ、医師(われ)は幕下
一般に、〈実年齢〉が高いほど、〈見た目年齢〉との個人差は大きくなる。
老健では、見た目年齢があてにならない。
大正生まれの婆さんは食欲も旺盛だ!…というか、食欲があるから元気なのに違いない。古人曰く、病は気からと。
〇「七度九分? だいじょぶだあ」と食堂で飯を食ひたる大正うまれ
アラハン(百寿)レディの食欲を見て「食べることは生きることだ」と実感。それは栄養補給に止まらず、生きる気力をも生み出す。まさに、〈食〉と〈生〉のポジティブ・フィードバックである。
〇ステーキもワインも好む三保さんは百寿を超えし山の手育ち
「ついの○○」と言う場合、大概は諦め感がただよう。
でも、「終の食」という言葉は前向きに使いたい。
老健カルモナでは〈終の食〉を勧めてきた。
看取り期に入り食欲のなくなった方へ、〈食べる楽しみ〉や〈生きる気力〉だけでも差し上げたいという願いだ。
家族にとっても、〈終の食〉を工夫することで、看取る覚悟が生まれる。
〇終の食〈いいちこ〉氷なめる爺。看取る家族の禁酒令とけ
〇胃ろうの人、終の桃ジュースに微笑めり。味覚嗅覚蘇(かへ)りしならん
翻って、古希プラスワンの我が身は?
酒はやめたし、外食も面倒になった。タバコフリーの店がないのだから…。
「手料理が一番」と、妻への一首。
〇酒無用!供物もいらぬ遺影には。汝(なれ)と食わんや生くる間にこそ
(20190520)
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