第16話 団塊の二粒

 今日5月6日は、団塊の二粒にとって、〈令和〉で一回目の結婚記念日。


 新婚旅行から戻った日、医師国家試験の合格通知を受け取った。

 映画のクライマックスシーンさながらに…青森駅の改札口で、葉書持参の家族と喜びあった情景は、今でも忘れられない。


 1973年ゴールデンウィーク明けの慶事。


 その二か月ほど前にうけた口頭試験は、更にドラマチックだった。

 内科系試験官の出題した心電図が、朝食後に友人と勉強したものと同じパターン。

 さらに外科系の試験でも、出題された人工血管について、臨床実習で見聞きしたことを話せた。

「受かった!」と感じて、私の第55回医師国家試験は終了。


 当時の国家試験は年に二回実施され、春の合格率が95%以上と、実にのどかな時代だ。

 若いカップルに『不合格』という予想はない。

 しかし後で合格率が88%だと知り、「一生分の運を使い切った」と思いつつ神様仏様に感謝した。


 今なら無謀な選択だったと思えるが、青臭い医学生は「医師としての人生を夫婦で歩き始めたい」と決意していた。

〈ノブレソブリージュ〉が、伴侶と共有しておきたかったフランス語だ。

「社会的地位において、より高い立場の人間に嫁せられたモラルコード」と、一般に言われてきた言葉である。

 しかし今や、「高貴な立場の人」というより、「恵まれた立場の人が自覚すべき義務」と捉えるのがしっくりする。


 お手本は、弁護士だった祖父の生き様である。

 〈明治〉の人間は、風呂敷包みを持つ着物姿で裁判所へ出かけた。

○インバネスコートの祖父が背に見き弁護士然たるノブレソブリージュ


 医師としては、当初の計画と違ったかもしれない。

 しかし、その時その時の状況に合わせて、二人で選択した結果に悔いはない。


 もう少しだけ〈団塊の二粒〉のままで地域医療を続けたいもの…。


(20190506)

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