第6話 人生七十古来稀

 私事にわたるが、まもなく古希も過ぎ去る。

 

 …と書いて、この詩を見ていないのに気付き「杜甫」を二冊も求めた。

 読み探すうち、「曲江」の二首目で「古希」に出会う。

   朝回日日典春衣 毎日江頭尽酔帰

   酒債尋常行処有 人生七十古来稀

   穿花蛺蝶深深見 点水蜻蜓款款飛

   伝語風光共流転 暫時相賞莫相違

「朝廷からの帰り、春着を質に置き、曲江の畔で酔いしれる。酒代の借りは先々にあるが、七十まで生きる人は稀なのだから…」とビックリな内容だ。

 この詩は、七十歳を意味する「古希」の出所とされている。しかし清時代の注釈者は、「杜甫は既に成語となっていたものを借りたのであろう」と言う。


 それにしても…漢字は便利だ!

 中国語が分からない私でも、何となく詩の雰囲気は想像できる。

 『日本語教のすすめ』を読んだ。

 著者の鈴木孝夫氏は、日本語の視覚的特異性を、「ラジオ型でなくテレビ型言語」と例えた。

 曰く「私たち日本人にとって言葉とは、ラジオのように音声が全てではなく、文字表記(漢字)の映像も加わっている複合体である」と。

 ラジオでは、天文の話題で「すいせい」と聞いても、帚星か惑星なのか迷う。がテレビで漢字を見れば、「彗星」か「水星」か、文字どおり一目瞭然である。


 人生百歳の時代。今の世に相応しい漢詩を探した。

   生年不満百 常懐千歳憂

   昼短苦夜長 何不取燭遊

   為楽当及時 何能待来滋

   愚者愛惜費 但為後世嗤

   仙人王子喬 難可与等期

        (「古詩十九首」より)

「人生は長くても百年、くよくよ悩むなんて…」と大らかで愉快な詩だ。

 今の私にもピッタリだと思う。

 こんな気持ちで人生を愉しみたいもの。


(20181203)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る