第5話 私立巌手図書館

 明治41年9月28日、私立巌手図書館が開設されたそうだ。

 岩手医科大学のホームページを見ると、「当時の盛岡では唯一の施設で、特に医学に関する内外古今の図書を収集保存し、閲覧参考に供した」と記されている。


 それから110年後、岩手医科大学附属図書館の利用カードを拝受できた。

 学外者用カードは(意外にも)無料。

 利用制限は多少あるが、書庫なども閲覧できるので満足している。


 天井の低い書庫は、特有の匂いが漂っていた。

 どこの図書館も同じだが、書棚の上は直ぐに天井で手が届く。

 図書館の2階分の高さに、3層の書庫が詰め込まれる構造のため、非常に窮屈だ。


 そのうえ、書庫には普通の窓がなく、かなり暗い。

(新しいタイプの書庫には自動点灯式の照明があるはずだが…)こちらは歴史ある書庫なので、蛍光灯のスイッチを探しながら進む。


 階段を上って2層上の書庫で、目当ての日本医事新報4139号を見つけた。

 なぜか昔から、書庫に入るとトイレに行きたくなる。

 急いで閲覧室に戻った。

 約15年ぶりに見る自分の文章。

「日本・エジプト合同医療調査団のイラク派遣」を読み返す。調査から4か月後のイラクでは、日本人外交官射殺事件が発生!

「よく無事に帰国できた」と改めて思う。


 遥かなるバグダッドでの記憶は鮮明だ。

 凶弾に倒れた奥克彦大使、彼の笑顔も忘れられない。

 エピソード記憶は大丈夫。

(映画のタイトルを思い出せないのは物忘れで済むが、認知症では映画を見たというエピソード記憶自体なくなる)


 弘前大学を離れた今、岩手医大の図書館を自由に使えることは非常にありがたい。

 散歩の途中で立ち寄り、各診療科の新刊雑誌に目をとおす。


 気になるのは、岩手医大が矢巾町へ移転したあと…

 私立巌手図書館の運命や如何に?


(20181119)

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