第4話 考えるアシ

 2016年11月から、滝沢市の老健施設へ通い始めた。

「これを使ってください」と渡されたのは、ふくろうのロゴが描かれた施設長用の名刺。

 それからは、「施設鳥」を自称している。


 赴任当時、洒落のつもりで「通所リハビリ利用票」を提出した。

「利用者:68歳男性、盛岡市在住。最近の状況:東日本大震災後に被災地で医療支援をしていたが、心身の疲れもあって南三陸町を離れた。利用目的:体力維持とボケ防止。本人の希望:運転免許証返納までは、通所リハビリに通いたい。目標:生涯現役医師。利用回数:週5回」


 施設鳥のリハビリは、運動しつつ考える「ながら法」だ。

 これは、「足の鍛錬で転倒予防、脳の鍛錬で認知症予防」と、一石二鳥の優れものでもある。

 リハビリ室が空いているとき、筋トレをやりながら、シルバー川柳をひねる。

 五七五と指折り数えられるよう、下半身用のマシンを使うのがコツ。

「葦を足 パスカル嘆く 誤変換」

「パスカル君 考える足だ 人間は」


 人間は、二足歩行によって、手が自由になった。

 しかし逆に、四足歩行の動物に比べて、格段に転びやすくもなった。

 高齢者では尚更である。

 筋力は低下し、バランスも悪くなり、視覚や聴覚の障害も出るから、「転倒ゼロ」とは無理な話。

 むしろ「転倒リスク」を理解したうえで、積極的に日常生活を楽しみたい。

 そんな「生活リハビリ」に取り組むことこそ、施設鳥のリハビリ哲学だ。


 介護する家族にもお勧めなのが、「転倒予防の全てが分かる本」松本健史著。

 曰く、「転倒予防には、四つの視点から取り組みたい」と。

 ①転びそうな人の見分け方。

 ②転ばない環境整備。

 ③転ばせない介助。

 ④転ばない体づくり。


 通所リハビリを始めて丸二年、古希の施設鳥は今日も飛び回っている。

 まだ「年寄りの冷や水」とは言われたくない。


(20181105)

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