第3話 運も幸も呼ぶ街
「いってらっしゃい」と妻が見送る先、動き始めた新幹線が高架の上で朝日を浴びた。
北上川沿いに並ぶタワーマンションを抜けると、緑のE5系と茜のE6系は徐々にスピードを上げる。
青森と秋田出身の私たちは、「はやてこまち」の姿に、妙な親近感を抱いてしまう。
いつもの朝食風景だ。
初めての盛岡は、新婚旅行で途中下車した時だと思う。
まだ新幹線のない時代。
結婚式が昼だったので、そのまま青森駅で見送りを受けて盛岡へ向かった。
寝台列車に乗るまでの数時間、盛岡の何処で何をしたか、妻も覚えていないと言う。
開運橋は渡ったと思うが、新婚さんが橋の名前など気にするはずもない。
二年前に南三陸町から引っ越す際、開運橋通りという地名が気に入り、北上川沿いに仮住まいを決めた。
以来、橋の上で「かいう~ん」と唱えるのが出勤ドライブのルーティン。
新婚旅行で気づかなかった縁起担ぎを、45年ぶりに毎朝繰り返しているつもりだ。
開運橋の西袂に木伏緑地がある。
名前ほど緑は多くないが、四季折々のイベントには手ごろなスペースだ。
さんさ踊りの練習にも使われる。
太鼓の音に、娘さんたちの艶っぽい掛け声。
「サッコラ」は漢字で幸呼来と書き、幸を呼ぶという願いを込めた意味らしい。
去年の夏は弘前に戻らず、さんさ踊りを見物した。
今年は迷った挙句、どちらも見ずに夏は終わっていた。
終の棲家に迷いはない。
すでに、猫の額ほどだが土地は確保してある。
(津軽富士の)岩木山と向き合う高台だ。
「両隣がキリスト教だから、我が家も背の低い石造りに…」と決めてある。
「ずっと更地のままだったらいいのにね」と妻は草取りを続けた。
盛岡には開運橋も幸呼来もある。
終の棲家に納まるまでは、できるだけ長く「盛岡ぐらし」を楽しみたいと願う。
(20181022)
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