第90話 平穏死を考える

 有名な教科書『ハリソン内科』から…。

「命を終えようとしているから食べないのであり、食べないから死ぬのではない。これを理解できれば、家族や介護する人は不安(悩み)を和らげられる」

○死の近き生き物なれば食べぬなり逆にあらずとあらためて知れ


▼十年前「平穏死」なる言葉が生まれた。

 石飛幸三著『平穏死という選択』によれば、きっかけは黒田和夫弁護士との会話だったらしい。

「尊厳死、安楽死という言葉はあるが、石飛先生が考えておられるのはそのどちらとも違います。肉体的にも精神的にも苦痛がなく、穏やかに亡くなるということで言うと『平穏死』ですかね」―。


▼米国では多くの医学会が〈必要性に疑問のある医療行為〉をリストアップした。

 チュージング・ワイズリー(賢い選択)キャンペーンだ。

 その一環として、アメリカ老年医学会が「進行期認知症患者に経管栄養を推奨しない」と提言している。


▼日本の場合、2014年度の診療報酬改定で〈胃ろう造設術〉の診療報酬点数が引き下げられた。

 この前後で胃ろう造設件数の推移をみると、92232件(2011年)から45096件(2016年)へと半減したが、その後は5万件台を推移している。

 だが(胃ろう造設の代わりに)経鼻胃管や中心静脈栄養が選択されているらしい。

「医は算術なり」とは言いすぎか…。


▼コロナ禍のおり、2021年の正月は書庫の棚卸をした。

 8年ぶりに長尾和弘著『平穏死という親孝行』を読んだ。

「平穏死という言葉が広まり、高齢者本人が強く願って準備していても、子どもが誤った思い込みを『親孝行だ』と勘違いして、親の平穏死を邪魔しているケースが実にたくさんあるのです」に納得。

「親孝行したいときには親は無し」と言う。

 親のある方には、ぜひ一読をお勧めしたい。


(20210118)

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