第59話 クォランティン

 14世紀のヨーロッパでペストが大流行したとき、感染している街の港から来た船は、イタリアのベネチアに入港できず、40日間の海上停泊が求められた。

 これが検疫(quarantine)制度の始まりで、イタリア語40(quaranta)が由来とされる。


▼検疫とは(その地域にない感染症の病原体が持ち込まれないよう)空港や港で行う検査(必要であれば隔離・消毒)措置である。

 横浜に寄港していたダイヤモンド・プリンセス号の乗員乗客が(一定期間)下船できなかったのはまさにこの状態だった。


▼最近では「self-quarantine」という語も目にする。

 これは(人に移さないよう)自宅などに籠り、人との接触を避けている状態。

 その理由は、陽性反応が出ても病院の空きがなかったり、感染が疑われても検査を受けられなかったり、とさまざまである。


▼かつての日本では「日清戦争の帰還兵検疫」を後藤新平が指揮した。

 3か月弱で23万人の検疫をしてしまうというのは、欧米からも絶賛され、その報告書は世界の医療関係者を驚嘆させた。

○医者として後藤新平は任果たす二十万余の帰還兵の検疫


▼それもそのはず…。

 後藤新平は(北里柴三郎と一緒に)ドイツのコッホ研究所で細菌学を学んいる。

 この日本陸軍の検疫事業を知った皇帝ヴィルヘルム2世が「ヴンダバー(Wunderbar)!」と絶賛したかどうだか。

 こうして(岩手の偉人)後藤新平は、日本を伝染病の流行から守ったのである。


▼後藤新平の遺骸は東京の青山霊園に埋められているそうだ。

 …が、その思いは故郷にあるだろう。

 水沢公園には今も、半ズボンのボーイスカウト制服姿で銅像が建っている。

「備へよ常に」と、岩手の新型コロナウイルス対策を引き締めているに違いない。


(20200608)

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