第27話 大福と月と夜長

 散歩に小銭は欠かせない。

 妻の笑顔と「おみやげは?」に応えるため…。


 今日は松尾の餅屋で大福を買おうと、買物袋も持っての散歩。

 いつも妻が買うのは「大福」と「豆大福」なので、「玄米大福」と「かぼちゃ大福」も追加した。

 食べきれないのは想定内で、やはり冷凍庫ゆきとなった。が、すぐに無くなるはず。

○大福を散歩がてらにもとめきて互ひに祝ふ敬老の日か


 ベランダから眺める大きな月。

 一茶の句「名月をとってくれろと泣く子かな」が浮かぶ。子供なら「手が届く」と思うほどの大きな名月である。

○名月に「ありがたいネ」とくりかへし手をあはせたる汝ぞありがたき


 「名月」と同じように「夜長」も秋の季語である。

 ほかの季節なら「春の日長」「夏は短夜」「冬は短日」と表す…らしい。

「秋の夜長」が似合う季節は、〈秋分〉から〈冬至〉の間という。


 それにしても、(個人的にだが)今年は酷暑の頃から夜が長いと感じていた。

「夜長を楽しんだ」と言い換えてもいい。

 エッセイを書いたり、短歌を詠んだり…。

 夜長を楽しんだ訳は、酒と〈SNS〉をやめたからである。


 老健施設長を始めてから、夜間の呼び出しに備えて晩酌をやめた。

「飲んだら診るな!診るなら飲むな!」である。その上、禁煙の店探しが面倒になり、近頃は外食や外飲みもやめた。

 おかげで、有意義な夜長と爽快な目覚めを実感している。


〈SNS〉も、チョットしたきっかけで足を洗った。

 被災地で医療支援をしていた頃は、全国の仲間と連絡を取り合う便利なツール。

 その「いいね!」が段々と目的化してしまったのである。

 こんな〈承認欲求の呪縛〉も解け、今や私のスマホは単なる携帯電話機。

○酒をやめ〈SNS〉も消しさりて秋の夜長の先取りすべけむ


(20190930)

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