第101話 忘却とは…

「認知症の予防に脳トレでもやったら?」と家族に勧められ、仕方なく続けている老人の姿は気の毒である。

○世のなかに脳トレなるもの多々あれど認知症予防の効果や如何に


▼最近よく聞くセリフに「どうも近頃、忘れっぽくて…」がある。

 つい自分でも口に出るが、本当は「記憶しづらい」と言うべきなのではないかと思う。

○忘れっぽいと記憶しづらいは似て非なり。記憶せざれば物忘れもせず


▼そもそも〈記憶力〉とは、インプット(覚える)メインテイン(維持する)アウトプット(思い出す)の総合力だ。

「コンピューターなら何でも保存できる」とはいえ、メモリにも制限がある。

 ましてや生身の人間では、不必要なことを忘れる〈忘却力〉も欠かせない。

○物忘れ頻(しき)りなれども救ひもある。忘れしことは覚えゐるなり


▼外山滋比古(とやましげひこ)氏は、著書『忘却の力』で看破する。

「近代社会には(より広く、より多くという)知識信仰が根強い。そんな〈知識メタボリック症候群〉を解消するには、運動ならぬ忘却が必要であろう。しかし忘れることは(散歩などに比べて)格段に難しいのである」と。


▼1950年代初め「銭湯の女湯が空になる」と言われるほど大ヒットしたらしい『君の名は』というラジオドラマ。

「忘却とは忘れ去ることなり」と始まったそうだが、就学前の私は記憶にない。

「記憶にない」といえば、昨今の官僚や国会議員の忘却ぶりには呆れ果てる。


▼閑話休題。

 忘却せぬうちに〈認知症〉の話題に戻ろう。

「なりたくない」とか「なったらどうしよう」と悩みながら暮らすよりも…。

「残された大切な時間をどう過ごすか」を工夫して今を生きたい。

〇認知症の予防の術(すべ)のなかりせば我が余生こそ思ひ和(のど)むれ


(20210405)

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