第11話 コレクター

     

 「収集癖」とは、(貴重なものばかりでなく)つまらない物でも収集したがる病的な癖、と広辞苑には載っている。


 チョット…と思うが、〈白い巨塔〉に棲息していた頃を思い出す。

 論文を書くたび別刷りも貰い、それをクリアファイルフォルダーに貯めた。

 業績集に別刷りを添えることが、当時は昇進の際の作法だったからである。

 単に論文の数を増やすだけなら、商業雑誌が簡単だし原稿料も頂ける。

 逆に評価の高い学会雑誌では、査読という関門を通らなければならないし掲載料も請求される。

 それでも懲りずに、「今度こそは」と挑戦し続けた。


 あれから四半世紀、今は新聞投稿に鞍替えし再び挑戦中…が、投稿者のレベルは高く激戦区だ。

 さすがは〈読書家の街・盛岡〉と感心している。

〇収集家:「病的な」とはひどすぎる!むかし論文いまは新聞


「掲載された朝はゴキゲンね」と妻に笑われると、確かにそうかも…と素直に認めるしかない。

 妻は記事を切り抜き、神棚に供えてくれた。

 大分貯まった頃、〈白い巨塔〉時代の習慣で、クリアファイルフォルダーを何冊も用意。


 さらに、老医師の固いあたまを茶化して、クリアファイルフォルダーは〈いしあたま〉と命名した。

 最初のファイルを表紙と目次に使えば、全部で78件の切り抜きが納まるはず。

 日付を印字した台紙に、切り抜きを1件ずつ貼る。


 クリアファイルフォルダーが一杯になったら、投稿原稿の体裁を整えて製本しよう。

 背表紙がつくボリュームは欲しいので、終の楽しみとして、一本でも多く投稿を続けたい。


 さて、〈いしあたま〉の使い道だが…。

 そうだ! 通夜の席で酒の肴にしてもらおう。

 会葬者の口が軽くなるように、「会葬御礼」を最終号のタイトルに決めた。


 でも執筆はもう少し先にしよう。


(20190225)

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