第12話 賢治清水

 宮沢賢治の童話…独特の文体や描写が怖かった。

 初めて読んだのは、青森市立橋本小学校の図書室だと思う。


 60年ぶりの賢治ワールド。

「あした、めんどなさいばんしますから、おいでんなさい。とびどぐもたないでくなさい。山ねこ拝」という件も懐かしい。

○〈どんぐりと山猫〉読めば不気味なる宮沢賢治の世界よみがへる


 宮沢賢治の使ったとされる井戸が、〈下の橋〉の北袂にある。

 当時と場所は違うものの、「賢治清水」と呼ばれている。

 石畳が傾斜した一画には、宮沢賢治自筆の〈ちやんがちやがうまこ〉と彫られた歌碑も並ぶ。


 賢治清水は「おいしくて日持ちする」と評判だ。

 早朝には、ペットボトル持参の高齢者が並ぶ。

 その列には時々だが、リュックサック姿の私も…。

 ポリタンクに一杯の水を詰めた帰り道は、散歩というより足腰の鍛錬でもある。

「ぽっこんぽっこん」という背中のリズムは、歩くスピードによって変わる。


 運んだ水は、酵素玄米を炊く時とコーヒーを入れる時に使う。

 酵素玄米は、南三陸町で友人から勧められた健康食だ。

「水道水はダメ」と教えられた。

 朝食の締めは自家製のヨーグルト。

 それに、一片のチョコレートとコーヒー一杯。


 宮沢賢治は、「雨ニモマケズ」の中で「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ」と言う。

 我が家の場合、一升釜で炊いた酵素玄米を、夫婦で一週間かけて食べる。

 白米に比べて噛む回数が多いから、〈食べる〉機能増進にもなるはず。


 賢治清水の水汲み散歩も、冬のアイスバーンでは、結構なハードトレーニングになる。

 滑って転ばぬよう慎重な「小刻み歩行」に合わせて、背中のリズムは「ぽこぽこぽこぽこ」とせわしい。


 岩手女子高校の桜が咲いたら、中津川沿いを遠回りして楽しもう。

 桜を「蛙の卵のやうだ」と、賢治は言ったが…。


(20190311)

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